第22章 七転び、風折れ
ふと傍らへ視線を下げると、崩壊した建物の壁を背に、臀部を落としぐったりとしなだれて座り込む行冥の姿があった。
「────ッ」
後藤は叫び出しそうになるのをこらえた。
行冥はぴくりとも動かずそこにいる。左足が失く、どくどくと流れ出す鮮血だけが後藤の双眸を刺激した。
(ほ、他の皆はどこへ···っ)
あちこちへと視線を走らせ、捉えた光景に茫然自失し、そして後藤はおののいた。
皆、行冥と同じような状態で至る場所にうずくまっている。意識がない。斬撃を喰らい四方八方へと吹き飛ばされたのだ。
刃を握りしめた状態で転がっている義勇の右腕。
崩落した建物の上層部から飛び出している脚は実弥のものだ。
誰もが皆、致命傷を負っている。
立ち上がる者がいない。
すぐに動ける者がいない。
ただ一人、塵埃晴れたその場所にカナヲの姿だけが確認できた。
がくりと膝を落としたカナヲの近くに、無惨が立ちはだかっている。
カナヲは日輪刀を握りしめ、しかし小さな身体を硬直させたまま迫り来る無惨を見上げていた。
愕然とし、凍りついている様子だった。
「やめろー!!」
思考する間もなく飛び出していた。
なぜ飛び出したのかはわからない。殺されるかもしれないという恐怖よりも先に、脚が勝手に動いていた。
だが間に合わない······! 思った刹那、
"ヒノカミ神楽"
『 輝 輝 恩 光 』
後藤の眼前に炎が揺らめく。
立ち上る、鮮烈な赤。
たちまち、無惨の触手が片方一刀両断された。
「遅くなってごめん」
炭治郎がそこにいた。