第22章 七転び、風折れ
隠の後藤は建物の物陰から柱たちの戦いを固唾をのんで見守っていた。
こんな時、共に闘えない自分にひどくもどかしさを感じるが、力のない人間がしゃしゃり出たところで足手まといにしかならないとわかる。今は、己ができる精一杯で柱や隊士たちを支えることが役目。
ふと、一時劣勢に思えた柱たちの動きに再び躍動感が戻ったように思えた。
さらに双眸を凝らしてみると、塵埃の旋回が増し、ややあって隊士の人数に変化が見えた。
(あれは···!)
後藤の双眸に飛び込んできた猪の面覆い。伊之助である。
続いて、善逸とカナヲがその姿を現した。
ともに無惨と渡り合える隊士が増えた。柱たちにとってもこれほどまでに心強いことはないだろう。
カナヲの実力は隊の中でもお墨付きだし、数々の死線をくぐり抜けてきた伊之助や善逸もまた力のある隊士だ。
彼らが生きていたことにも感極まるものがあり、後藤は眼裏をじんわりと熱くした。
せめぎ合いが続く中、チカ、チカと数回火花のようなものが弾けた。
柱たちの刃が、赫く染まっていた。
「カアアア!! 夜明けまで一時間三分!!」
──凄い。
これ、もしかしていけるんじゃないか? このまま夜明けまでもつんじゃないか?
後藤は、手に汗握る思いで胸もとに当てた拳に力を込めた。
遂に倒せるんだ無惨を···!!
覆面頭巾に隠れた口が真一文字に結ばれる。期待と高揚に身体が震え、涙が滲んだ。
皆の力が無惨を追い詰めていると感じた。
そのときだった。
パギャ···!! ドン······ッ!!!
聞いたこともない不快な音が鼓膜に刺さり、辺り一面が巨大な揺れに襲われた。
(うわわっ、何だ今の音と揺れ)
突如静寂に包まれる。
首筋がひやりとし、後藤は顔面から血の気が引いてゆくのがわかった。
浅くなる呼吸を押し殺し、恐る恐る遠方へと視線を戻す。
(?? えっ?)
ドクン、ドクン。
再び地面が揺れているように感じた。しかしそれは自分の心臓が大きく震えているためだと知る。まるで、この嫌な予感と底知れぬ恐怖の正体を知ることを全身が拒んでいるような。
(え?)
ドクンッ。
立ち込める白煙のなか、皆の姿が忽然と消えていた。