第4章 旅は道連れ
そんな星乃の頭頂に、ガシッ。唐突に、なにかが落ちてきた。
え? 落ちて、きた?
違う。星乃は脳内で首を振る。なぜならそれは、落ちてきたというよりも、がっちりと掴まれていたからである。
これは実弥の手なのかしら。そうなのかしら。
いまいち状況が飲み込めず鼻をすすり呆けていると、わっしゃわっしゃ。頭皮を予想外の刺激が襲った。
「さ、実弥?」
もしかして、一真の言う、"いいこいいこ"をしてくれているつもりなのだろうか。
実弥なりに、慰めてくれているということか。
まばたきを繰り返し星乃は思う。
私の頭、鳥ノ巣みたくなっているんじゃないかしら。
「選べェ。このまま俺に髪を削ぎ落とされるか、とっとと泣き止むかァ」
なんてこと。それは脅迫というのよ実弥。
ぽかんとしながら、しかし、あまりの出来事に呆気に取られ、星乃は自分の涙が跡形もなく乾いていく気配を感じた。
わっしゃわっしゃ。まだ実弥のいいこいいこは止まらない。
「さっさとしろォ」
例え天地がひっくり返ったとしても、片方は選択肢から即座に排除の二者択一。『泣き止まねぇなら髪削ぐぞ』と言っているようなものなのに、さっさとしろもなにもない。
星乃は眉をヘノ字にしながら実弥を見上げた。
「···もう、泣いていません」
乱れた髪が星乃の視界をまばらに塞ぐ。
じっと、確認するように、実弥の双眸がなまえを見下ろしているのが隙間から伺える。
「···悪かったなァ。暗ぇ話、しちまってよォ」
「そんな、私が知りたくて聞いたんだから」
ぽん、ぽん。二度、柔く、実弥の掌が優しく弾んで頭頂から離れていく。
最後の最後で、こんな、おもむろに穏やかな触れかたをする実弥の手には、どこまでも不器用な優しさが宿っている。
「今度、ご家族···六人のご弟妹にも、手を合わせに、行かせてね」
髪を手ぐしで整えながら、星乃は実弥にそれだけの言葉をかけた。
なにもできない。特別なことは。実弥の気持ちが少しでも救われることを、今はただ、祈ることしかできない。
そんな自分が悔しくてたまらなかった。
「あぁ、いや六人、つぅか」
「?」
「一真!」