第4章 旅は道連れ
実弥の羽織は真っ白だ。汚れたらさぞ目立ってしまうことだろう。
そういえば、自分はちゃんと手巾 (ハンカチーフ) を持っているのだった。
「ざ、さね、み」
どうにかして実弥の名前を発すると、ぴたり。ようやく腕の動きが止まってくれた。
「···長ェこと知らねェフリしてたのは、お前の気遣いだろうが」
わかってんだよ、んなことは。
そう続ける実弥の傍らで、星乃のまぶたにすっと明るい光が射し込む。
離れてゆくしゃぼんの香り。
もう少しだけこのままでいたかった···なんて、可笑しなことだ。
「ねえおにいちゃん。おねえちゃんに、いいこいいこはしてあげないの?」
隊服の衣嚢 (ポケット) から手巾を取り出している最中、一真が実弥の頭頂部をなでなでしながらさも当然のことのように言う。
まるで、「ほら、こうしてやるんだよ」と実弥に教示するように。
まだか弱く幼い掌が、実弥の頭を何度も行ったり来たりする。
「···いいこいいこだァァ?」
「うん。おかあさまがおっしゃっていたんだよ。ないているこがいたら、よしよし、いいこいいこってしてあげるのよって」
一真の手の感触にこそばゆさを覚えつつ、実弥はおのずとある懐かしい記憶を手繰り寄せていた。
自分の頭を撫でてくれた、母の手を。
幼い弟たちを肩に乗せてやると、決まってぐりぐりと頭を撫で回す、もみじのような手を。
家族でも、同じようでまるで違う。
触れかたも。
温度も。
じゃれようも。
ただひとつ、肩に乗る尊い重みに優劣はない。
誰もが皆自分には大切な存在で、代わりのいない弟妹たちがそこにいた。
「ありがとう。一真は優しい子ね。でも、私はもう大丈夫だから」
星乃はだいぶん落ち着きを取り戻していた。
手巾を鼻に添えながら一真を見上げ微笑む。