第22章 七転び、風折れ
奥方へ進むにつれて隊士たちの亡骸がぽつぽつと目につきはじめる。それは無惨との距離を縮める毎に増し、辺りは見るに堪えない光景と化していた。
第一陣で駆けつけた隊士たちはほぼ全滅だ。
「チィ···ッ!」
「カアアアッ、一時間半! 夜明ケマデ一時間半!!」
憤怒の形相で舌打ちした実弥の頭上で鴉が叫ぶ。
(──見えた!)
塵埃舞う中、見やった先に三つの人影が間断なく飛び回っていた。
義勇、小芭内、蜜璃の面々がかわるがわるしきりに攻勢をかけている。三人がかりであるのにも関わらず、無惨が衰えている様子は雫も感じられない。
実弥が顔を歪めた理由はそれだけではなかった。無惨の見てくれが不気味な化け物に変貌を遂げているのである。
白髪 (はくはつ) の長い髪。四肢は血に染まったように赤黒く、それらの至るところでぱっくりと開いた口穴が鋭い牙を向いている。
背や下肢からは革鞭にも似た細い管が複数出芽し、それは伸縮する上肢同様広範囲に振り回すことが可能な触手で、斬撃を受ければ猛毒を喰らい致命傷になるという。
数えきれぬほどの仲間の亡骸が地を赤く染め、誰のものかもわからぬ胴体や四肢が散乱していた。
たびたび腰を屈めては、懐にとあるものを忍ばせゆく実弥。そのとき、行冥が背後で速度を上げた。
蜜璃に放たれた攻撃の軌道が行冥の武器によって外へ流れた。瞬間、無惨が驚いたように双眸を見開いたのがわかった。
「遅れてすまない」
行冥の姿を見たとたん、それまで狼狽していた柱たちの表情に心持ち士気がよみがえる。
鬼殺隊、最強の男が来てくれた。それだけで、追い込まれていた精神が幾らか持ち直ってゆく。彼にはそれほどの信頼がある。
───ドン!!
上空から無惨の背後に忍び寄り、実弥は白髪の頭頂から縦一直線に日輪刀を入れ込んだ。
もちろん奴に痛手はないことは承知している。斬られたそばから再生できる無惨の肉体をばらけさせることは不可能。
わかっていても斬らずにはいられない。
粛々とした憎しみと、その身体に刃を入れ込むことなど造作もないという宣戦布告。
実弥はさきほど懐に忍ばせた化合物入りの瓶を無惨に向けて多量に放った。