第22章 七転び、風折れ
無惨が復活した。
鴉が声高に柱集結の伝令を告げる。
玄弥を喪 (うしな) った哀しみを背に連れ立ったまま、実弥は努めて無惨のいる場所へ向かうことだけを考えた。
無限城に落ちる直前、無惨の身体を弱体化させる薬の投与に成功したと訊いたが、奴はこちらが上弦と遣り合っている間のうのうと体力回復に時間を費やしていたというのだから胸が悪い。
無惨が出現したとされる場所はここより反対方面で、加えてたびたび空間が移動することもあり、思うように前に進めないことが煩わしくもあった。
間取りの入れ替わりが寸刻刻みになってくる。四方八方の壁や天井が上下左右に滑り出し、統一性のない動きを繰り返しはじめると、無限城はギシギシと軋むような音をたて大きく揺れた。
「「!!」」
ドン···ッ!!!
突如巨大なもの同士が激突したような衝撃を受け、実弥と行冥は物凄まじい勢いで上空に突き上げられた。
気づけば上空には澄んだ夜空が広がっていた。
ハッとして瓦礫の中から飛び起きる。地上に出たのだとすぐに理解し、実弥は即刻駆け出した。
無限城──無惨の本拠地ともいえる隠れ家は崩壊した。上弦も下級の鬼も皆絶命した。残る敵は無惨のみ。
無惨は頚を斬っても死なないという行冥の言葉が今一度脳裏を過る。
頚の斬首が不可能ならば、別で屠る方法を暗中模索しながら闘うことになるだろう。とはいえ最後の砦には陽光がある。地下にいる間にはなかった希望だ。
すでに他の柱たちが無惨と火花を散らしているとの情報が届いた。
想定から大きく外れたという市街地には高い建物が点在している。故に甚大な被害を被ることが予想され、犠牲者を最小限にとどめることにも気を配らねばならない。
( 急げェ······っ!)
途中、民間人がたむろっていた。地盤沈下を訴る隠たちの姿もあり、これ以上先には進まぬようにと道を塞いで通せんぼしている様子が見られる。
無惨のいる場所はだいぶん先だが、広範囲に渡り被害が及ぶことを考えればこの辺りから立ち入り禁止にするのが妥当。
おそらく隠たちが民間人をここまで避難させたのだろう。これなら無惨を殺すことのみに集中できそうだ。
実弥は風のようにその場をすり抜け先を急いだ。