第4章 旅は道連れ
「おねえちゃん、どうしたの···? だいじょうぶ···?」
「───!」
幼い労りの声が降り注ぎ、隣の異変に気づいた実弥は驚きのあまり双眸を見開いた。
口もとを覆う手を小刻みに震わせて、星乃は嗚咽していた。
星乃もまた、様々な感情を胸の内で渦巻かせ言葉にならない想いでいた。
ずっと、軽挙妄動に歩み寄ることは許されないのだと足踏みしてきた。
つらい経験をしたのだろうと、推し量っているつもりでいた。しかしながら、その事実は星乃の想像を絶するものだった。
どんな言葉をかけてあげたらいいのかわからなかった。どんな言葉を紡いでも、慰めにもならない気がした。
こんな風に私が涙するのだって筋違いだろう。いまさら実弥の過去を知ったことの不甲斐なさも入り交じる、身勝手な涙だ。同時に、まだ幼かっただろう実弥が実母に手にかけなければいけなかった状況を思うと胸が張り裂けんばかりに痛くなる。
こんな痛み、実弥のものとは到底比べものにもならないだろうに。
「馬鹿、が、メソメソすんじゃねェ···っ」
「っ、私、今までなにも知らなくて、長い間、一緒にいたのに···っ、ごめんなさ」
「別に、てめぇが謝ることじゃ···っ、グ、ぁあ"あ" ァ、クソ」
「んん」
ごしごしごし、と、星乃の顔面に白く柔い木綿の布が押し付けられる。
布越しに感じる実弥の体温。この重厚感は実弥の腕だ。
どこか懐かしさを漂わせる、ほのかなしゃぼんの香りが鼻をくすぐる。
「俺は拭えるモンなんか持ってねぇからなァ、これで我慢しやがれよ」
「ふ、ん"ん"」
実弥の羽織が星乃の涙を吸い取ってゆく。
まぶたに触れる感触は、これまで特別意識したことはなかったはずの、自分のものとはあきらかに異なる逞しい腕。
拭っても拭っても涙はなかなか引いてくれず、そうこうしているうちに鼻からも止めどなく水が出てくる。
これは、少々困りものだと思った。
鼻からの水分は、なんというかこう、涙よりも粘り気があるので、実弥の羽織がとんでもないことになってしまうのではないかとの懸念がよぎる。