第21章 消息の途切れ
何だ、この、醜い姿は。
ふっと、辺りが闇に包まれる。
『兄上の夢はこの国で一番強い侍になることですか?』
背後から幼い声が聞こえ振り向くと、七つの頃の縁壱がにこりとわらってこちらを見ていた。
『俺も兄上のようになりたいです。俺は、この国で二番目に強い侍になります』
この国で、一番強い侍に。
───なぜだ?
ドクン。
突然、黒死牟の心臓が大きく震えた。否、心髄が爆ぜたような音がした。間を置かず、ボロ、と脇腹が砕け散る。無一郎に刺された場所が。
ゴシャ······ッ!!
ザン······ッ!!
鉄球と刃の立て続けの攻撃に襲われて、黒死牟の身体が傾く。
行冥と実弥目掛けて血鬼術を出そうとしきりに胸の前に手を掲げても、黒死牟からはもうなにもでてこなかった。
黒死牟はそれでも足掻く。いいや、まだだ、と。
まだ再生できるはず。まだ負けではない。
そう心の内で抗い続ける。
しかし思いとは裏腹に、肉体は崩壊し続けてゆく。
とうとう、黒死牟の膝が地面に崩れた。
『お労しや。兄上』
幼い縁壱がいた暗闇の空間が、涙を流す、年老いた縁壱の姿に移り変わった。
鬼となった兄を憐れみ、縁壱が老骨で斬りかかってきた、数百年前の赤い月の浮かぶ夜の日に。
肉体は衰えているにも関わらず、縁壱の剣の技は全盛期と変わらぬ速さ。そして威力。
なぜだ、と、黒死牟はまた胸をかきむしるような思いに駆られた。
縁壱は特別だった。
生まれたときから類い稀なる才を持ち、この自分が望むすべての力を持っていた。
妬ましくてたまらなかった。憎らしくてたまらなかった。お前のような者は生まれてなどこないでくれとさえ願った。
なぜお前だけが神の寵愛を一身に受けられるのだ。同じ母の腹の中から共に産まれてきたというのに。
なぜお前はいつも私を惨めな思いにさせる。なぜ私ばかりが己を蔑んで生きなければならない。
私は、強くなりたかった。
それだけだった。
······なぜだ? なぜこの国で一番強い侍を志した?
そうだ縁壱。
お前を、守らねばと思ったからだ。