第21章 消息の途切れ
縁壱の、声がする。
縁壱が微笑んでいる。
黒死牟は、走馬灯のように流れる鮮やかな弟の記憶を胸の内に巡らせていた。
「不死川───!!」
行冥が叫んだ。
「攻撃を手を緩めるな!! 畳み掛けろ!!」
言われて実弥も異変に気づく。
辛 (から) くも落とせたはずの頚。それなのに、黒死牟の肉体は塵にならずにとどまっている。まだ、敗北してなるものかと抗っている。
次の瞬間、切断面からの流血が凝固するようにぴたりと止まった。
傍らにはぐったりとしなだれている無一郎の姿が見える。半身がない。
地に伏せている玄弥が視界の片隅に映り込んだ。周囲はまるで血の海だ。
「時透と玄弥の命を、決して無駄にするな!!」
行冥の言葉を理解した瞬間、実弥は感情を爆発させ激昂した。
「上等だコ"ラ"ア"ア"ア"!! 消えて無くなるまで刻んでやら"ア"ア"ア"!!」
"風の呼吸 捌ノ型"
『 初 烈 風 斬 り 』
"岩の呼吸 伍ノ型"
『 瓦 輪 形 部 』
横眉怒目で斬りかかる。
仲間や弟。そして、これまでに散ってきた数多の命が駆け巡り、涙が実弥の頬を濡らした。
「「!!」」
その矢先、行冥と実弥は己の目を疑うことになる。
信じられないことに、黒死牟の頭が再生したのだ。
その姿はもはや人間の見れくれとは程遠かった。角を出し、牙を剥き、金棒のような仰々しい異物が肉体を突き破る異形の化け物と化していた。
「頭を再生しやがったあの野郎!! 糞が!! 畜生があアア!!」
「攻撃し続けろ!! 頚を落とされた直後で身体が脆いはずだ!! 無惨ほどの速さでは再生していない!! 頚を狙え!! 何度でも!!」
再び躍起になって向かってくる二人を前に、黒死牟は己の勝利を確信していた。
なぜなら、鬼の急所である頚を克服してみせたのだから。
もう誰にも負けやしない。敗北は二度とない。
向かうところ敵なしと、黒死牟は誇らしげな想いでいた。
実弥の刀身に映し出された己の姿を目撃し、放心する瞬間までは。