第21章 消息の途切れ
玄弥は炭治郎に言われた言葉を思い出していた。
自分は弱い。呼吸だって使えない。
怖いと思う。
役に立てないことが。
仲間を守れないことが。
助けたいという気持ちが強くなるほど、思うように動けなくなってしまうのだ。
そんな俺に、しかし炭治郎は『敵がこちらを警戒できる絶対数は決まってる』と鼓舞した。
『弱い人が予想外の動きで壁を打ち破れたら、一気に風向きが変わる。勝利への活路が開く』
玄弥は、嘘偽りのない眼差しで鼓舞する炭治郎の言葉を信じた。
「必ず決める」と、己を信じた。
決めれば仲間が奴の頚を落としてくれると信じた。
そうして放った肉弾は、まるで玄弥の意志を宿した魂のように奴の肉体にめり込んでくれた。
行冥と実弥が間合いに入る。
実弥の刃が、あとわずかな差で黒死牟の頚に届くまでに迫った。
「────────!!!」
突然の黒死牟の咆哮。
間髪いれずに放たれた攻撃。
後方へ弾け飛んだ行冥と実弥はすんでのところで身をかわしたが、刃は冷酷無慙に無一郎の胴体をひと息で貫いた。
奴は、振り動作もなしに肉体から突出させた無数の刃で攻撃を放ったのだ。それは遠方にいたはずの玄弥にまで及ぶほどの凄絶な破壊力。
玄弥は、顔面半分を失い血飛沫と共にその場に倒れた。
この、化け物。
失血で朦朧としはじめる中、無一郎は忌々しげに顔を歪めた。
行冥と実弥が黒死牟に再び斬りかかってくるのが見える。二人は死ぬまで戦うだろう。
だが駄目だ。無一郎は内心で強く否定する。
二人をここで死なせるわけにはいかない。
まだ無惨が残っているのだ。
鬼殺隊の中でも上位の実力を持つ二人を失えば鬼殺隊の勝利は遠退く。そんなことは絶対にさせられない。
みんなのためにも、俺がこの二人を守らなければ。
無一郎は、自身の命があとわずかな灯火であることを悟っていた。
黒死牟が動く。
金属音のような音がする。
また、あの無数の刃が飛んでくるのか。
させてたまるか。
どうにかするんだ。
( 俺が、死ぬ、前に )