第21章 消息の途切れ
無限城。
数多の円柱が聳え立つ大広間の一角で、不死川玄弥は真っ赤に色変わりした双眸を剥き南蛮銃を構えていた。
神経を研ぎ澄ませ、歯を食いしばり、無惨に次ぐ力を持つ上弦の壱の鬼【黒死牟】を狙う。
激闘に先陣を切ったのは兄の実弥だった。
遅れてやってきた行冥の加勢と、身体の自由を奪われていた無一郎の復活もあり、現在は三人がかりでのせめぎ合いが続いている。
驚くことに、黒死牟は呼吸を使う鬼だった。
月の呼吸という型を操る奴の強さはこれまでのどの鬼も比ではない。
目まぐるしい速さで繰り広げられる呼吸の技巧。力のない自分が接近すればなにも成せずに即死するだろうとわかる。
こうして遠目から眺めているだけでも気を呑まれ、恐怖に蝕まれてしまいそうになる。
ここへ来てすぐのこと、玄弥は手も足も出ぬまま黒死牟に身体を斬り刻まれていた。
実弥が現れるより先に黒死牟と対峙したのは無一郎で、しかし黒死牟は刀身も見せずに無一郎の動きを封じ、陰で隙をうかがっていた玄弥の胴を矢継ぎ早に真っ二つにした。
鬼喰いをしている玄弥が胴の切断で死ぬことはなかったが、鬼化した玄弥の体質は鬼と同等。首に刃を振るわれれば絶命する。
黒死牟は、人間でありながら鬼化できるその能力を見知っているような物言いをした。いつかの時代、玄弥と同じように鬼喰いをしていた鬼殺隊士がいたらしい。
窮地に立たされた玄弥の危機をすんでのところで救ったのは、突風のごとく現れた、兄の実弥だった。
袴を纏い、歪な刀を腰に下げた黒死牟の姿はまさに侍。人間に近い風采ではあるものの、ひたいから頬にかけて皿のように見開かれた赤い双眸が左右縦三列に連なっている。
玄弥は今、それと同じ異形の双眸をその顔面に携えていた。黒死牟の髪や刃を喰らったのだ。
実弥と行冥の猛攻が続く中、ようやく、ほんのわずかに見えた綻び。
黒死牟の間合いの内側へ飛び込んで行った、無一郎の姿を見た。
ドン
無一郎の持つ日輪刀が黒死牟の脇腹から背に貫通する。同時に断たれた片足が宙を舞い、無一郎は吐血した。
はじめの一戦ですでに左手を失った無一郎。
残された右手に日輪刀を布で巻きつけ固定させ、捨て身覚悟で黒死牟の身体に日輪刀を入れ込んだ。
『玄弥。撃っていいから。構わなくていいから』