第21章 消息の途切れ
空を見上げると雪雲は消えていた。小雪がちらついた名残はあるがすぐに過ぎていったらしい。
雲の切れ間には幾つかの星がまたたいていた。
うっすらと霧がかる山道を駆け登り、見晴らしのよい場所を目指してまっしぐらに突き進む。
夜の闇はまだ深く、辺りの静けさや空気感で把握できる時刻は丑三つ時を過ぎた頃。
( お館様は、ご無事だろうか )
報せのひとつもないことが、今もなお戦いが繰り広げられているのだという無情な事実となり星乃の血を掻き立てる。
集落を見渡せる場所に立ち、しかしどの方角へ向かえばいいのだろうと星乃は遠くの空を見やった。
紅葉も爽籟について産屋敷邸まで向かったのか、姿が見えない。
通常、産屋敷邸までは案内がないと辿り着くことはできない。とはいえ現在は状況が状況である。
なにか目印になるようなものでもあればと中腹まで足を運んだが、眼前に広がる景色は代わり映えのない暗がりばかり。すると、ふと山の向こうの東の空に妙に赤みが差したことに気がついた。
遠目から山火事のそれを見ているような飴色が、空全体に滲み出てゆく様子を捉えた。
「······あそこだわ」
間違いないと確信し、下肢にぐっと力を込める。
『俺は!! お前には死んでほしくねぇんだ!! わかってくれ!!!』
勢いをつけ飛び立とうとした刹那、鼓膜に息を吹き返した実弥の言葉が脚に加えた力を奪った。
鬼気迫る形相のなかに垣間見た、哀願。
実弥ははなから私を総力戦には加えないつもりでいたのかもしれない。
刃を振れなくなったときも、柱候補に私の名前が挙がったときも、柱稽古も。
ぶっきらぼうで、素直とは言えない物言いも多かった実弥。けれど、実弥は私を、私の心を、いつだって守ろうとしてくれていた。実際ずっと守られていた。
あんな実弥ははじめてだった。
真っ向から乞うように、「わかってくれ」と告げる実弥は。
思わず一瞬、たじろいでしまったほどに。
伏せたまぶたを持ち上げて、星乃は眼差しを強くした。
「······生きてほしいと願っているのは、私も同じよ。実弥」