第21章 消息の途切れ
深い場所から浮上する朧気な意識を行灯の橙色が現 (うつつ) に手招く。
物音ひとつしない静寂の中、星乃は目覚めた。
「──っ、」
反射的に勢いのまま布団から飛び起きる。
見慣れぬ家屋だった。が、ここが藤の花の家紋の家であると理解するのにさほど時間はかからなかった。
東西南北、津々浦々。鬼殺隊が長きに渡り心身共に支えられてきた歴史ある家だ。家屋の作りに違いこそあれ布団の柄は共通している。かつ神棚を祀る奥には藤の花を象徴する家紋がくっきりと印されていた。
「······わたし」
まだ少しだけ頭痛の残るひたいに手を当て、意識を失くす前の記憶を辿る。
産屋敷邸の襲撃。鬼舞辻無惨。総力戦。
次々に思い出される実弥の言葉に、どくん、どくんと心臓が大きくうねった。
卒然と響き渡った緊急招集の伝達は、星乃だけでなく実弥にも大きな動揺をもたらしたのだと感じた。
星乃を屋敷にとどまらせようとする実弥の気迫は凄まじく、それでも食い下がっていたところで視界が眩み、その後のことは覚えていない。
「っ、こんなときに限って倒れるなんて」
状況を察するに、ここは風柱邸近くに構える藤の花の家紋の家だ。実弥がここへ運んできてくれたのだ。
掛布団を剥ぎ取ると、着用していたはずの隊服は淡藤色の浴衣に着替えさせられていた。屋敷の住人が身体を気遣ってくれたのだろう。
隊服は丁寧に畳まれた状態で枕元に置かれていた。
星乃は早急に浴衣から衣を包み直した。
倒れてからどれだけの時間が経ったのか。
こうしている間にも、多くの仲間が、実弥が、身命を賭し戦っているのだと思うと自身に怒りが込み上げてくる。
( 大丈夫よ······実弥は、絶対に大丈夫 )
今にも叫び出したい気持ちをこらえ、星乃は祈るような思いでまぶたを閉ざした。
片目が覗く程度障子戸を開いて様子を窺う。とても静かだ。
大きな物音をたてないよう気を配りつつ、衣紋掛けから外した羽織に袖を通し、日輪刀を腰に差す。
( ······家主さん、ごめんなさい )
気配を殺して廊下へ脚を踏み出すと、ふわりと藤の花の匂いが香った。