第20章 ふりふられ
「それじゃあ私も行ってくるわね」
「ああ、用心して行ってこいよォ」
「実弥も冨岡さんによろしくね。あ、稽古なんだから、喧嘩はしちゃだめよ?」
「はっ、どうだかなァ」
「もう」
星乃は眉をへの字にした。
実弥の物言いは義勇に対しては相変わらずで、けれど文句を言いつつ義勇の稽古場まで足を運ぶ実弥は天の邪鬼だなあ···と、唇を尖らせたそばから笑みが零れる。
門扉の前で手を振り別れ、実弥と星乃はそれぞれ互いの道を急いだ。
星乃は後輩の隊士と一緒に街へ出る約束をしていた。
彼女の母がもうすぐ誕辰を迎えるらしく、離れて暮らす母に贈り物をしたいという彼女の買い物に付き添うことになったのだ。
昨年入隊したばかりの彼女はまだ年齢も十七で、父親と姉が鬼に襲われ帰らぬ人となり鬼殺隊への入隊を決めたのだという。
母の反対を押し切り家を飛び出したという彼女。独りきりで暮らす母の様子は、時折鎹鴉に頼んで無事を確認してもらっているらしかった。
「母はあまり贅沢しないひとだから、いつも貰い物や祖母のお下がりばかり着ていた印象しかないの。好きなものが何かも聞いたことがないし······何を贈ったらいいのかな」
「サキちゃんからの贈り物ならどんなものでも嬉しいんじゃないかしら」
「でもあたし、家を出てきてから母との便りを断 (た) ってるし···。鴉の皇子 (みこ) には定期的に様子を見にいってもらっているけど、あたしから会いに行くことはできなくて······『なんの取り柄もないお前になにができる』って言われてそのまま家を飛び出してきちゃったから、お母さん、まだ怒っているかもしれない」
隣で肩を落とすサキの頭を撫でる。
「お母様、サキちゃんのことが心配で引き止めたくて仕方なかったんだと思うわ···。大丈夫。素敵な贈り物を選んで、元気でやっていますってお手紙も添えましょ。きっと喜んでもらえるわ」
「うん···! 星乃ちゃんがこの前あたしにくれたこの靴もすっごく素敵でいいなと思ったんだけど、お母さんが着物以外の服を着てるのって見たことないなあ」
「そうねえ。靴じゃなくても、形に残る物や普段から使える物がいいんじゃないかしら。それに少し珍しいお菓子を添えてあげるとか」