第20章 ふりふられ
私たちも帰りにカフェーでお茶でもして帰りましょうね、なんて話をしながら街の大きな呉服店を見て回る。
帯や着物は品揃えも豊富で素晴らしかった。しかし少々値が張るため予算内に収まらないのが難点で、帯留めや簪 (かんざし) などの小物類を手に取る。
以前、母と一緒に食べたというべっこう飴にそっくりな蜻蛉玉 (とんぼだま) の簪に熱の籠った視線を向けて、サキは「これにする」と嬉しそうに笑顔をこぼした。
季節は冬の入り口である。
寒さは日に日に厳しくなり、肌を刺すような風が幾度となく星乃の頬を吹きつける。
その日はとても良く晴れていて、三日月と星が美しい夜だった。
夕刻過ぎに屋敷に戻ると実弥の姿はまだ見えず、今晩も遅い帰宅になるのだろうと湯浴みの準備に取りかかる。
夜の帳が下りてすぐのこと、実弥が帰った気配を感じた。
「お帰りなさい。今日は普段よりも早いのね」
玄関先まで迎えにゆくと、敷居を跨いだばかりの実弥は神妙な面持ちでいた。
「···なにかあった?」
「···ここに帰る道すがら、妙なもんを潰した」
「妙···? 潰した···?」
「気色悪ィ目玉みてぇなもんだ······そこに、肆と記されていた」
「それって···っ」
「上弦の鬼の目玉に刻まれてるっつう、数だ。おそらくは」
「っ、また、鬼が動き出したの」
「可能性はある。後をつけてきやがった目玉はその場で潰したが······星乃、念のため藤の花の焚き物を増やしておけ。それから、しばらく夜は気を抜くなよ」
「···わかったわ」
ぞわりと、星乃の背に戦慄が駆ける。
再び動き出した鬼。生き存えている鬼舞辻無惨。
上弦の鬼を数体屠り、一時鬼の出現がぴたりと止まった。歴史の中でもはじまりの剣士たち以降の快挙だ。鬼殺隊はこれまでになく無惨を追い詰めているのだと、星乃は胸の内にわずかな希望を見出だしていた。
このまま静かに朽ち果ててはくれないだろうか。
そんな浅はかな夢を一瞬でも思い描いてしまった頭の中で、愚か者がと嘲笑う声がする。
鬼舞辻無惨は自らを終わらせない。
鬼殺隊が、
その存続を絶つまでは───。