第20章 ふりふられ
「だから引っ付いてくんじゃねェって!!」
「頼む不死川。俺とも手合わせをしてくれ」
「嫌なこった! それに、俺ァ今、悲鳴嶼さんと稽古してんだ、テメェになんざに割く時間は無ェ!」
「なに、 (羨ましい) ならばその後で構わない。頼む」
「しつっけェぞ!! テメェはとっとと持ち場に帰れェ!!」
「不死川」
ずんずんずんずん。実弥が歩く速度を上げる。合わせて星乃も懸命に後を追う。義勇も負けじとついてくる。
ぐんと離れ、すっと追いつかれを繰り返し、しかし義勇は一向に諦める気配を見せない。
星乃は口を挟めずに、ただはらはらしながら実弥と義勇を見守り続けた。
歩いているとはいえ、はたから見れば通常の人間が全速力で走っているよりも速い。異様な三人組である。
そろそろ風柱邸へ到着するところまできていた。
「ッ"、クッソが···っ、七面倒臭ェ···ッ、いつまでついてくる気だ冨岡ァ、いい加減にしろやテメェはァ···っ、キショイんだよォ!」
「む、(心外) 不死川が首を縦に振るまでは帰らないつもりだ」
「グ···ッ!!」
ついには実弥の言葉が詰まる。これだけ捲し立ててもめげず、スンとすました顔でどこまでも追いかけてくる奴の執念にこれまで以上の煩わしさと疲労を覚えた。
もうすぐ屋敷に着いてしまう。屋敷の場所が知れたら毎日のように訪ねてきそうな勢いである。いや、このままでは屋敷に居座り続けるやもしれない。
「不死川」
「···ッ"」
「不死川」
「ダァアアッ! わかった、わかったっつうんだよやりゃあいいんだろ!? やりゃあ!!」
実弥は根負けした。
厨の氷箱に鮭の切り身をしまい終わってすぐのこと。屈めていた腰を上げた瞬間、星乃は背後から腕を引かれた。
勢いのままくるりと身体が回転すれば、渋面をあらわにした実弥が星乃の眼前に立っている。否、これは立ちはだかっているといっても過言ではない。どっしりとした構えで腕を組み、星乃を見下ろす実弥の姿態 (しな) は、まさに行く手を遮る強大な壁のようだ。
ご機嫌ななめだわと、すぐにわかった。
「さ、──んん"ん"っ?」
ごしごしごしごし。羽織越しの実弥の腕が頬の高いところを擦る。