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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第20章 ふりふられ



「不死川······? なぜここに」

「そりゃあこっちの台詞だァ。なんでテメェがこんなとこにいやがる」

「あ、あのね実弥、冨岡さんお蕎麦を食べにいらしたんですって。ほらあそこの、私たちもよく行くところ。美味しいわよね」


 実弥の怒気を紛らわそうと、星乃は慌てて実弥の傍らへ身を寄せた。


「ああ? 蕎麦ァ?」

「鮮魚屋さんに立ち寄っていたところを偶然お見かけして、私が声をお掛けしたのよ」

「不死川の屋敷は、この付近なのか」

「ハ、テメェにゃ関係ねぇがなァ! 蕎麦食いに来ただけってんならとっとと帰れやァ! 真っ昼間から大衆の面前で粉かける真似なんざしやがってみっともねェ!!」

「実弥ってばなにを言うの···っ、ほら、鮮魚屋さんにもご迷惑がかかるから···っ」


 青空のもと、土埃舞う大通りの商店街に実弥の捲し立てる声が響いた。

 鮮魚屋の店主は店先で捌こうとしていた魚を前に呆気に取られたような顔で硬直している。

 軒を連ねる店からも、なんだなんだと店の者や客がちらほらと顔を出し、近づいちゃいかんとばかりにそそくさと去ってゆく通行人を横目に見ながら、星乃は実弥の片腕に懸命にしがみついていた。



「俺は鰤を買っただけだ。粉をかけた覚えはない」



 義勇は涼しい顔で言う。

 相も変わらずの義勇に加え、前回の柱会議での発言をいまだ許せずにいる実弥。

 肩に担いだ米俵に、実弥の指先がぐぐぐぐっと食い込んでゆく。



「俺はなァ···テメェのそういうとぼけ腐ったところも好かねェんだよォ···! 覚えはねェだァ? たった今こいつに触れてたろうがァ···っ!」

「実弥お願いよ、落ち着いて···っ」


 ダンッ! 真沙土を踏み鳴らし食ってかかる実弥の腕を力一杯で引き止める。片腕で米俵を担いでいるのがせめてもの救いだった。でなければ、実弥は即座に義勇に掴みかかっていただろう勢いだ。



「不死川、まつげだ」

「···ァア"!?」

「飛鳥井の顔にまつげが付いていた。俺はそれを取り払っただけだ」



 あっさりと、淡々と、義勇はそう口にした。

 実弥の威勢がピタリと止む。

 義勇から放たれた一言に、星乃も「ぇ、」とすっとんきょうな小声を漏らした。


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