第20章 ふりふられ
後輩の隊士と蕎麦の早食い。この意外な発言に、星乃は思わず目をしばたたかせた。
義勇は寡黙な人だと思う。物腰は落ち着いていて、稽古の休憩中も一人きりでぼんやりしているところをたびたび見かけた。
一人でいるのがお好きなのかなあと思っていたし、なぜ蕎麦の早食いをしたのかは不明だが、他人と物事を競い合うような人にはとても見えなかったので、星乃は内心で驚いていた。
ちなみにその後輩の隊士が竈門炭治郎であったことは後 (のち) に知る。
義勇に別れを告げ、一礼した直後。顔を上げると義勇が星乃の顔をじっと見ていた。
ややあって、星乃に歩み寄る義勇。その距離はだいぶん近い。
「?」
なにかしら、と思った矢先、義勇の手が星乃の頬へと伸びてきた。
「「············」」
星乃は無心で義勇の顔をぼんやりと眺めていた。というのも、普段の星乃ならば驚いて後退りするような状況なのだが、このとき星乃はまるで別のことを考えていた。
( 冨岡さんて、こうして近くで眺めるととっても綺麗なお顔立ちをしているのねえ )
同じく義勇も無言である。顔色もひとつとして変えず、星乃の頬へ指先を滑らせる。
「オイテメェ冨岡ァ······なにしてやがる」
背後から低く地を割るような声がしたのはそのときだった。
ハッとして振り向くと、別で米屋へ向かっていた実弥が立っていた。
「さ、実弥」
「気安く人のモンに触れてくれるたァ···いい度胸してんじゃねェかァァ」
一俵の米俵を担いだ実弥が黒々しい空気を纏ってずん、ずん、とこちらに近づいてくる。
顔が怖い。さらに怖い。
ぐいっと強く腕を引かれ、星乃は義勇から引き剥がされた。
星乃と義勇の間に割って、実弥が入る。