第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
玄弥が実弥にとっての希望であるなら、星乃は淡くほのかな光だ。
凍てつくような寒い冬、雪の降る頃に咲く、艶やかな淡黄の花、蝋梅。しんしんと積もりゆく白い雪を見守るように、やや下を向いてひらく花弁。それはまるで星にも似た、闇夜に浮かぶ道しるべ。色褪せていたこの世の中で見つけた光。
星乃の双眸を覗き込む。ゆらゆらと揺れる眼球に、吸い込まれそうな浮遊感を覚えた刹那。
星乃の両手が、実弥の頬を包み込んだ。
律動が、最奥で止まる。
出逢った頃からなにも変わらない温かな手。柔い風のような微笑み。
思い出す。
星乃を独り占めしたかったあの頃を。時に自分ではない誰かに向く優しさに苛立ちを覚え、すべてを奪ってやりたい衝動に駆られた。
「実弥······ありがとう」
「っ"、?」
「ここに、私を連れてきてくれて、······ありがとう」
頬を滑った掌が、色素の薄い髪の毛を優しく撫でた。
「私······とっても幸せよ···」
星乃は泣いていた。
星乃が存外泣き虫だと知ったのは、恋仲になってからだ。実弥は、匡近が生きていた頃に星乃の涙を見たことがない。文乃の葬式でも気丈な振る舞いをしていたし、仲間の死に直面したときでさえ、実弥の前で泣くことはしなかった。
匡近を失ってから見えてきた、星乃の脆さ。強くなろうとする健気さ。それでいて、ふとした時に見せる凛とした物腰。
傷つけてなるものか。思う反面、この先を欲している矛盾。星乃との日々を積み重ねれば積み重ねるほどに、膨らみ続けてゆく想い。欲心。葛藤。
律動をやめても陰茎は鎮まらず、それを包み込む星乃の蜜壷も収縮を繰り返している。
視界の端で見た夜空の色彩は瑠璃色味を帯びていて、あと一刻もすれば白んでくるだろう空をぼんやりと想い描いた。