第4章 旅は道連れ
実弥はなにを···! 星乃の足が半歩、前へ踏み込んだ次の瞬間。
幼子の身体がひょいと高く持ち上げられた。
「っ、わ、あぁぁあ」
「これなら良ぉく見えんだろォ、坊主」
「すごい···! たかい···! いっぱいみえる!」
「そりゃァよかったなァ」
星乃の背よりもぐんと上に、あどけない笑顔が昇っている。
実弥が幼子を抱えたのは、肩車をするためだったのだ。
怯えていたことなどすっかり忘れてしまった様子の幼子は、見通しのよい高さから見る街並みをそちこち楽しそうに見渡している。
「坊主、名前はなんだ」
「···ぼくは、かずま」
「カズマか。字は書けんのかァ?」
「ぼく、まだかけないけどしってるよ。ぼくのなまえはひとつにまっすぐなんだって、おかあさまがおしえてくれたから」
「ほぉ。なら 【一真】ってやつだなァ。いい名じゃねぇかァ」
へへ、と、一真が得意そうに笑む。
星乃はしばし面食らっていた。
実弥が子供と戯れているところなど、はじめて目にしたからだ。満面とは程遠いものの、実弥の表情は普段よりも柔らかで、微かに下がった目尻が如実にそれを物語っている。
肩車も、少なからず幼子の扱いに慣れていなければできない芸当だろう。
「なんだァ、鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔しやがって」
はっとして、星乃は実弥を繁々と見つめた。
「手慣れてるなって、少し驚いちゃって」
「あぁ、まァ、下に六人弟妹 (ていまい) がいたからなァ」
「え?」
なんと、下に六人。
仰々しく驚くほど珍しいわけではないにしろ、二人姉妹だった星乃にとっては十分な大家族である。
「上に、兄様や姉様は」
「いねぇ。俺が長男だ」
なるほど···。
星乃は妙に納得した。
出会ってからこれまで、実弥は誰かに甘えるような態度を見せることはなかったし、炊事洗濯掃除全般、なんでも一人でこなしてしまえる。
星乃のほうが歳が上であるというのに、実弥には感心させられることが多かった。
長子という点では星乃もまた同じだが、文乃は病床に伏すことが多く、年子で大人しい性格でもあったため、星乃が世話を焼いた記憶はほとんどなかった。