第4章 旅は道連れ
実弥の言うことはもっともだと、星乃は宙を仰いでうーんと考える仕草を見せた。
もしかしたら、幼子の母親はすでに派出所へ出向いているかもしれない。
「でも、こんな小さな子の足だもの。案外まだ近くにいるかもしれないわ。少し探してみて、見つからないようならお巡りさんのところへ連れていきましょう」
「遅くなると師範が心配するんじゃねぇのか」
「まだ日も高いし平気よ。ひどく遅れるようなら鴉に言付けを頼むわ」
二人は星乃の生家へ出向く途中だった。
星乃は鬼殺隊入隊と同時に生まれ育った家を出て、現在は山間のふもとで一人で暮らしている。
ことあるごとに生家へ立ち寄る星乃とは反対に、実弥は長らく師範のもとを訪ねることはしておらず、今日はしばし時間も空いたことから星乃と共に飛鳥井の家へ出向くことを決めたのだった。
この華々しい街を越えた場所にある、幾ばくか閑静な土地に飛鳥井の家はひっそりと佇んでいる。
急ぎ足で向かっても、刻二つほど数える距離を歩かなければならない。
「ね、大丈夫だから、実弥もお願い」
こうと決めたら引かないところがある星乃。
仕方がねぇなァと口にしながらも、こんなとき、実弥は毎度星乃に従ってくれるのだった。
「おい坊主ゥ。母ちゃんはどんな格好してやがる」
「ひぃ」
「実弥、顔、もっと優しく」
「優しぃだろうがァ、つぅか顔はどうにもなんねぇだろォ」
「うわぁあん」
「大丈夫、大丈夫よ坊や。怖くない怖くない」
実弥がちょいと近づくだけで、幼子は肩を震え上がらせ星乃の後ろに隠れてしまう。
無理もない。実弥は鬼殺隊の中でも群を抜いて下の隊士らに恐れられている存在なのだ。その理由は、厳しさや口の悪さ、威圧感といったものであるのだが、一番は"目がヤバイ"からである。
大の大人でさえそうなのだから、この年頃の子にはさぞかし地獄の番人のように見えていることだろう。
「···たく、男がいつまでもびいびい泣いて縮こまってんじゃねぇぞォ」
「ひ、」
星乃はぎょっとした。なぜなら実弥が唐突に幼子へと接近したからだ。
幼子は一層と身を縮め、まぶたをぎゅっと閉ざしてうつむく。