第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
唇が離される。
実弥の唇がうっすらと弧を描く。
吐息から分散される芳醇な香りを吸い込んだのち、舌に残った強烈な香味が鼻腔から脳天へ駆け上がってゆく有り様に再び視界がゆらりと揺れる。
鷲掴んだままの星乃の顎を再び軽く上向かせると、実弥は「どうだ?」とでも問いかけるような笑みを浮かべながら顔面を斜めに傾けた。
チロリと覗く隠微な紅色。唇についた水気をなぞりにきた舌尖の感触に、肩が小さく跳ねがった。
「もう一杯いくかァ······?」
問われれば鼓膜が震え出す。
欲しているのは酒なのか、はたまた実弥の口づけなのかは定まらないまま、手招くような甘やかな誘いにつられ、星乃は控えめに頷いた。
再び酒を呷る実弥の所作を、ふわふわした頭でぼんやり眺める。顎は掴まれたままでいたので不用意に動くことはしない。
まるで「待て」を指示された犬にでもなったつもりで大人しく酒が与えられるのを待っている。そんな自分ははたから見たらさぞかし滑稽に違いないという冷静さは持ち合わせているつもりでも、それは次の口移しで跡形もなく消え失せるだろう確信を肯定できるくらいにはどうでもよかった。
滑稽だってかまわない。
降りてくる芳醇な口づけを、今度は迎えるように受け入れる。
美味だった。
「あーあァ、少しやり過ぎちまったかァ」
「っ、ん」
「勿体ねぇなァ」
唇の端から溢れた酒が首筋を伝い胸もとに落ちてゆく。その一雫を追うように、肌に唇を滑らす実弥の頭に自ずと星乃の手が伸びる。
胸もとに埋まった実弥の頭髪をくしゃりと撫でれば、するり。蝶結びしていた腰紐がほどかれた。