第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
「それじゃあ、少しだけいただいてみようかな。お猪口をもうひとつ持ってくるわね」
「──星乃」
立ち上がろうとした星乃の手首を引き止める。
「実弥?」
小首を傾げ、星乃は下から覗き込むように上体を傾けた。
逐一愛らしさを感じさせる星乃のそれは、他者からしてみれば別段何の変哲もない、此岸 (しがん) の歴史にも残らぬほどの瞬刻の所作にすぎない。
どこかに刻まれるとするならば、それは実弥の記憶の中だけ。
刻 (とき) は無情だ。決して止まることはしない。
そよぐ風が髪の隙間を通り抜けてゆくのと同じ。過ぎ去れば、同じ風は二度と吹かない。
星乃と過ごす日常が尊い。
星乃が見せる一挙一動が愛しい。
あとどれほどの季節を星乃の隣で眺めることが叶うだろう。
考えてもしかたのないことだと腹を括ってはいるものの、ふとした瞬間、この移りゆく此岸の流れを無性に止めてしまいたくなる衝動に駆られる。
「酒なら、こっちでくれてやるよォ···」
「え···?」
瓶を持ち、猪口に酒を注ぎ入れる。再び一口で一気に酒を飲み干したあと。
「ふ、っ───ン」
星乃の顎を鷲掴むような手つきで挟み、口から口へと酒を移した。
「ッ、ふっ」
──ゴクリ。
星乃の喉を潤す音が、実弥のこめかみにじんと響いた。
流し込まれた液体を反射的に嚥下する。
鼻から抜けた初の味覚に、星乃の視界がふわりと眩んだ。とはいえ味や口当たりにまでは意識が向かない。ただ、一口飲み下しただけで身体の芯が熱を帯び、脳が蕩けてゆくような感覚に襲われた。
それが酒のせいなのか、それとも実弥の大胆な振る舞いのせいなのかはわからなかった。