第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
湯上がりに奥州木綿の浴衣を着付けた星乃の身体は石鹸だけのものとはいえない甘優しい匂いを漂わせている。
肩に触れた肌の柔らかな質感は、その先の艶事を意識せずにはいられなくなる温もりを宿していた。
「···いいや。だが師範は酒豪だろう。案外お前も強ェかもしんねぇぞ」
ふい。実弥は顔を背けながら愛嬌もなく答えた。
万寿菊が描かれた藍色の浴衣は星乃の白肌に良く映えた。そのうえ就寝時は下着類を身につけないため、膨らみが胸もとを強調している。
実弥は、星乃と暮らしはじめてからというものほぼ毎日のように星乃と情 (なさけ) を交わしている。
共に遠出の任務で数日屋敷を空ける以外は、幾度となく肌を重ねて互いのぬくもりを求め合った。
再三行為を繰り返し、星乃を抱き潰すような日もある。
そんな日は、決まって"足りない"と思うのだ。
理由は朧だ。何をそこまで欲しているのか、なぜ足りないと思うのか、はっきりとはわからない。
星乃との情交は、満足を通り越して狂おしささえ感じるほどなのだ。
時を忘れ、まるで欲望の黄河と淀みのない清らかな水面を往き来するように潜水しては浮上する。そんな現実味のない心地に陥る。
上肢に閉じ込めたその中で、溺れるように息をする星乃の姿が愛おしくてたまらなかった。
星乃が絶頂を迎えれば、それは自分が達する瞬間よりも満たされた。
反して決して言葉にできない想いが鉛となって心の深淵にぽとりと落ちてゆくようなときがある。
そんな日は、口づけを交わしながら無を求め、想いを吐息に溶かし続けて星乃を抱いた。