第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
天元から贈られた酒は、酒造りの有名な西の土地で製造された純米大吟醸というもので、実弥曰くめったにお目にかかれない高級品の代物らしい。
珍しいものとは露知らず。
酒に疎い星乃はごくありふれたお礼の言葉を伝えるしか気が回らずに、のほほんと帰宅した挙げ句庭先に置き去りにするというとんでもない失態を犯した経緯に改めて身が縮む思いがする。
星乃が猪口に注 (つ) いだ酒を、実弥は一息で飲み下した。直後、うめぇな、と言う声にハッとして、実弥の横顔から反射的に顔を背ける。
ぐっと酒を呷 (あお) った瞬間波打った喉仏に、思わず双眸を奪われていた。
「なんだァ呑んでもねぇくせに顔赤くして······まさか匂いだけで酔っちまったわけじゃあねぇだろうなァ?」
「そ、そういうわけじゃ」
不思議そうに覗き込んでくる実弥を見ながら火照った頭を左右に振った。
湯上がりの実弥は寝衣用の浴衣を着ている。実弥に似合いそうだと作日 (さくじつ) 星乃が購入してきたばかりのものだ。
さっそく着付けてくれた喜びと、渋みのある松葉色の浴衣を纏った実弥の姿は見慣れないせいもあり鼓動が速まる。
「星乃も呑んだらいいじゃねェか」
「あ···実は私お酒を口にしたことがなくて」
「呑めねぇのか?」
「どうかしら···? 匂いは平気みたいだけれど」
すんすんと、実弥の指先に挟まれた猪口に鼻を近づけ、改めて酒の香りを確認してみる。
祖母のキヨ乃は昔から酒を好まず、匂いからして性にあわないと眉をひそめていたことを思い出したのだ。
この純米大吟醸の匂いに不快感はない。むしろ呑んでみたいと思わせる魅惑的な香りに思えた。
「······実弥? どうかした?」
ふと、今度は実弥が星乃の呼びかけに引き戻される番だった。