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はごろも折々、蝉時雨 ( 鬼滅*風夢 )

第4章 旅は道連れ



 膝を折り、しゃがみ込んだ実弥の目線が幼子と平行の高さになる。

 ぴくり。実弥の声に反応を示した短い眉が、ベレー帽を乗せた黒髪の下からおもむろに現れた。



「父ちゃんか母ちゃんは一緒じゃねぇのか」

「···ふぇぇ」

「ァ?」

「ふえぇぇええん···っ」

「実弥···っ」



 突如幼子が大粒の涙をこぼしたので、実弥はぎょっとした。

 ぐいっ。
 星乃に腕を引かれて立ち上がる。



「実弥は顔が極悪人なんだから、もっと細心の注意を払わないとだめよ···っ」

「おい待てェ、それとなく聞き捨てならねぇことを言うんじゃねェ」

「うえぇぇえん」

「坊やごめんね。びっくりしたね。ほら、もう大丈夫よ」

「なんもしてねえだろうがァ、俺はァ」



 まったく心外この上ないったらありゃしない。

 星乃の言い分にいささか不満は残るものの、実弥はやむなく幼子から一度離れた。

 こうもぎゃいんと泣かれてしまったのでは致し方なかった。



「坊やはどこから来たの?」



 涙で濡れた頬に手を添え、星乃が優しく問いかける。



「ここまでは誰と一緒に?」

「お、お、おかあ、さま」

「そう、お母様と一緒にきたのね。教えてくれてありがとう。もしかして、はぐれちゃったのかな?」

「う、うん···っ、いなく、なっちゃった···っ」

「泣かなくても大丈夫よ。私たちが一緒にお母様を探してあげる。きっとすぐに見つかるわ」



 言いながら、星乃は陶器のような幼子の頬を両手で包んだ。すると、たちまち幼子の心細げな表情が和らいでゆく。

 実弥は知っている。
 星乃のあの柔い手が、ひときわあたたかなものであることを。

 あの慈しみを向けられると、誰もがたまらなく心安らいでゆくのだということも。



「しかしなぁ星乃よォ、こんだけ人が行き交ってるなかそうそう見つかるもんかねぇ。派出所に預けたほうがいいんじゃねぇか?」

「そうねえ···」



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