第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
図星をつかれ、星乃は大人しく湯殿を見に行く役目を担うことに決めた。
「そういやァ、庭先に一升瓶がほうって置かれてたみてぇだがありゃァ何だァ? 買ったのかァ?」
「あ···っ」
──なんてこと。
天元から贈られた酒のことだと、星乃は青ざめた。
乱闘騒ぎの対処にてんやわんやだったとはいえ、戴き物を軽率に戸外に置き去りにしてしまうだなんて、なんて失礼極まりないことをしてしまったのか。
酒は隊士の一人が気づいて屋敷まで持ってきてくれたそうで、幸い頂戴したときのままと変わらぬ状態の一升瓶が作業台に置かれていた。
ほっと胸を撫で下ろし、心の中で掌を合わせ詫びる。もしも取り返しのつかないことになっていたら宇髄一家に顔向けができなくなるところだった。
届けてくれたのは竹内という隊士らしい。後でお礼を言いに行こうと思う。
「そのお酒は宇髄さんがお祝いにってくださったものなの」
「祝いィ? 宇髄が?」
「実はね、宇髄さんとお嫁さんたちに、その、知られてしまったのだけれど、大丈夫だった···?」
どことなく濁して伝えたにも関わらず、実弥は察した様子で「ぁ~」と低い声を漏らした。
「大丈夫も何も、別に隠すようなもんじゃあねェだろォ」
さも当然のように言い切る。
こそこそするのは性に合わないという実弥らしい返答だ。
「宇髄さんて、実弥を気にかけてくださっているのかしら」
「あ? なんでそう思う」
「そうねえ······実弥のことによく気がつくひとだなあって思ったのと、稽古で顔を合わせたときも真っ先に「不死川は元気か」って聞かれたわ」
「よく気がつくのは元忍だからじゃねェかァ? 他人の細けぇとこまでよく見てやがる奴だとは思うぜェ」
「なるほど。確かにそれはあるかもしれないわね」
「だがちょいちょい兄貴面されることには違いねェ」
「そうなの? ふふふ」
「···お前はよく笑うなァ」
「だって、嬉しいんだもの。宇髄さんみたいなかたがいてくださるのはとても頼もしいし、ありがたいことだわ」
「そういうもんかねェ」
素っ気ない言葉とは裏腹に、竈の中の薪を転がしながらそう呟いた実弥の声音はとても穏やかなものだった。