第19章 :*・゚* 星月夜に果実は溺れ*・゚・。*:
実弥をわからずや呼ばわりした挙げ句、制止を振り切るように屋敷を飛び出してしまったのだから、まだ腹の虫が収まらなくともしかたのないことだ。
「······ごめんなさい」
バチン。
運悪く、竈のなかで薪の弾ける音がした。星乃の声はそれにかき消されてしまい、実弥もまた無言のまま料理の手だけを動かしている。
弱々しく放った言葉は逃げるように足もとへと落っこちていったらしい。屋敷を飛び出したときの威勢はどこへいってしまったのだろうと、まったく自分でも呆れてしまう。
「実弥、ごめんね」
改めて詫びた。
今度は顔を上げて上向きに、さきほどよりも、明瞭な声で伝える。
間を置いて、実弥の背面がおもむろに大きく膨らんだ。
「ったく······どこの跳ねっ返り娘かと思ったぜ」
「怒ってる···?」
「わからずやだのなんだの、存外言うようになったじゃねェかと気圧 (けお) されちまったがなァ」
「あ、あれはその、少し言い過ぎました······本当にごめんなさい」
「怒っちゃあいねェよ。我慢されるほうがむず痒くなっちまう。俺はンなことで愛想が尽きることもねぇし、言いてぇことがあんなら口にしてくれて構わねェ」
心なしか、その口調はどこか満ち足りたもののように聞こえた。
以前、「言いたいことがあるならはっきり言え」と伝えてくれた実弥。気持ちを受け入れられるかどうかは別としても、実弥なりに、歩み寄れるところは歩み寄りたいと、そう思ってくれているのかもしれない。
鍋からふつふつと小さな音が鳴りはじめる。
隣の羽釜はまだ火にかけたばかりなのか静かで、竈の火は燃え盛っていた。
「玄弥くん、大きな怪我はしていなかった」
「···だから言ったじゃねぇか」
「そのまま悲鳴嶼さんのところへ帰るって言ってたわ」
「そうかぃ」
「実弥に、似てた」
「そりゃ兄弟だからなァ」
「···ふふ。少しだけね、お話もしたの」
「何を嬉しそうにしてやがる」
「嬉しいわよ。実弥の弟さんだもの」
「···ふん」
「純粋で、優しい子ね」
「···まァ、そうかもしんねェなァ」
「実弥とおんなじ」