第18章 天の邪鬼のあかぎれ
「エエエッ!? 今から見回りの任務って嘘でしょ!? 俺こんなにボロボロなの見てわかんない!? 普通はさ、もっと労ってくれるもんなんじゃないの、ねえ!?」
裏手にある川縁 (かわべり) で、なにやら善逸がけたたましく騒ぎはじめた。追って、チュンチュチュン! と雀の鳴き声が聞こえてくる。
善逸の鎹雀がやってきたのはついさきほどのこと。
通常、隊士には連絡係として一人に一匹鎹鴉が用意される。はずなのに、善逸に限っては雀であった。
善逸は今から見回りの任務へ出向けとの伝令を言い渡されたらしい。
拒絶と説得 (らしきもの) のやり取りが繰り返されたのち、善逸はとうとうがっくりと肩を落として川縁から戻ってきた。
黄色の頭髪が乱れている。痛い痛いと泣き叫ぶ声がしたので、鎹雀に髪を引っ張られでもしたのだろう。
癖の強い鴉の集団にも負けず劣らず、だいぶん情熱的で芯の強い雀である。
玄弥は世話になっている行冥のもとへ帰ると言う。
俺も帰りたいと泣き言を漏らす善逸を励まし、星乃は少々後ろ髪を引かれる思いで玄弥たちに別れを告げた。
( ···また、ゆっくりお話ができたらいいな )
玄弥の好きなもの、興味があること。玄弥にとっての実弥はどんな存在なのか。
きっと、玄弥は星乃が知らない実弥をたくさん知っているのだろう。
玄弥の口から聞いてみたいことが、数えきれないほどある。
途中振り返って手を振ると、小腰を屈めてお辞儀をする玄弥の姿が見えた。
善逸は、広げた両手を大げさなほど振り、姿が見えなくなるまで星乃を見送ってくれていた。
「······あ!」
星乃の影が遠ざかる頃、突として善逸が声をあげた。
「な、なんだよ急に大声出して」
玄弥がそう言い終わるのを待たずに、「思い出した」と善逸が掌を拳で叩く。
「飛鳥井さんの音、どっかで聞いた覚えがあると思ってたんだよな。そうだ、俺、前に蝶屋敷で飛鳥井さんを見かけたんだ」
「──音?」