第18章 天の邪鬼のあかぎれ
玄弥は、なんのことだ? とでも言いたげな面持ちで小首を傾げた。
善逸は並外れて耳がいい。炭治郎の鼻が効く性質同様、善逸は生き物や自然の気配を音で感じとることができるのだ。
心音や呼吸音に加え、個々が抱く感情や性質なども、"音"として聞き分ける感性を持っている。
「俺の思い違いじゃなければだけど、飛鳥井さん、あのときお前の兄貴と一緒にいたような」
「え?」
「飛鳥井さんからも、風と同じ音がした。けど、もっと柔らかくて、おおらかで、優しい音だ」
「······単にあのひとも風の呼吸を操る剣士なんじゃねぇか?」
「うーん···? そういう音とは少し違うような気がするんだよな」
「なんだよそりゃ······わけわかんねぇな」
「チュン! チュンチュン!」
「わかった、わかったから! 行けばいいんだろ! 痛いってば、髪をひっぱるな!」
雀が善逸を急かす傍ら、玄弥はすでに見えなくなった星乃の影をもう一度探した。
辺りは急速に陰りはじめ、冷えた風だけが玄弥の黒髪を穏やかに撫でていた。