第18章 天の邪鬼のあかぎれ
「はい、玄弥くんはこれで大丈夫。次、我妻くんどうぞ」
「···アリガトウコ゛」
「よろしくお願いしまあす! なんなら俺のことも善逸くんって呼んでくれていいんですよお!」
ドン! 石畳の階段に座る玄弥を力一杯押し退けて、善逸はうふふしながら星乃の傍らに腰を下ろした。
玄弥はひたいに青筋を浮かべて拳を握り、しかし手当ての邪魔にはならないようひとまず怒りをどうにかしてぐっとこらえる。あとで一発殴ってやろうか、と思う。
善逸の怪我は本当に酷かった。顔はもちろん、手足には無数の切り傷やかすり傷、打撲の跡が残っていた。乱闘には巻き込まれていないはずだから、無限打ち込み稽古で負った傷なのだろう。
実弥の稽古の厳しさに耐えたのだと思うと、よく頑張ったねと褒め称えてあげたくなってしまう。
脱脂綿に薬品を染み込ませ、二の腕にできた深い切り傷に当てる。見ているこちらにまで痛みが伝わってくるような傷だった。
ところがどっこい、苦痛を微塵も表に出さず、終始笑顔で花を飛ばす善逸を見て、星乃も玄弥もその強靭な精神力には思わず瞠目したのだった。
「あ、」
薬箱を片していた星乃の手から包帯がひとつ転がり落ちる。
トン。それは下にいた玄弥の足に当たって止まった。
切れ端をきっちり留めておいて良かった。そのままにしていたらすべてほどけて丸々使い物にならなくなるところだったろう。
玄弥が包帯を拾い上げ、星乃に差し出す。顔を背け、極力距離をとった位置から無言で片腕を伸ばしている。こういった優しさは、いくらか実弥と通ずるものがあるなあと微笑ましく思う。
受け取りながらくすりと笑んで、ありがとうと礼を言う。
「袖なし羽織って、珍しいわね」
「ぇ」
玄弥は羽織の前身頃を握りしめ、「こ、これですか?」と耳殻を赤く染め上げた。
「よく見ると隊服の衣も少し形が違うのねえ」
「っ、俺、急に背が伸びたから、入隊時の隊服すぐ着れなくなっちまって···っ、眼鏡のひとが、新しくこれを」
まじまじと隊服を見てくる星乃にどきまぎしながら玄弥が答える。
「やっぱり前田さんて凄いのね。玄弥くんの体格にすごく似合う隊服だわ」
「ッ、ぃゃ」