第18章 天の邪鬼のあかぎれ
とうとう玄弥は肩を怒らせ善逸の首根っこを掴みにかかった。「なにするんだよぉ!」とじたばたもがく善逸に、「テメェのせいで話がちっとも前に進まねェ!」と玄弥が目尻を吊り上げる。
「二人とも落ち着いて···っ、私は竈門くんに頼まれてあなたたちの様子を見にきた者です···っ」
星乃も負けじと声を張る。すると、
「え···炭治郎に?」
どちらもぴたりと大人しくなり、善逸がぱちくりと双眸を丸くした。
「ええ。鬼殺隊の飛鳥井星乃と言います。竈門くん、二人の怪我の具合をとても気にかけていたから」
「た、炭治郎ぉ······やっぱりいい奴だなあ······稽古に連れ戻されたときは殴ったりして悪かったよう」
「見たところ、玄弥くんは大きな怪我はしていないみたいね。目の端が少し切れてるみたい。そこに座って。すぐに手当てするから」
しくしくと泣きはじめた善逸はかなりの怪我を負っていた。
まずは手早く玄弥の手当てをしてしまおう。そう思い、玄弥に声をかける。しかし玄弥は黙ったまま棒のように突っ立って動かない。
「ぐす······お前、なにじでんの? 飛鳥井ざんが手当でじてくれるって言っでんだから早くじでもらえよ (鼻声) 」
「······ぃゃ」
なにそんなに顔真っ赤にして。
言いかけて、ははーん。善逸は、閃いたように指を顎にかけてしたり顔を浮かべてみせた。
「わかったぞ、お前恥ずかじいんだろ、飛鳥井ざんがあんまりにも可愛いがら」
「う、うるせー! いいからテメェは鼻かめや!」
「うっひぇっひぇっひぇ」
「キッショイ笑いかたしてんじゃねぇよ!!」
図星だった。しかし玄弥のそれは星乃に限ったことではない。女性というものを強く意識してしまう成長過程の時期故のこと。
不死川玄弥、十六歳。いわゆる思春期真っ只中である。
反して善逸は根っからの女好き。ただしこれまでに抱いた恋心はすべて空回りに終わっている。
今は禰豆子という本命ができ、目下彼女との結婚を夢見て鬼狩りに奮闘する毎日なのだ。