第4章 旅は道連れ
もしも竈門禰豆子が今後人間に襲いかかった場合、到底「申し訳ありませんでした」では済まされない事態だ。
実弥は、鬼殺隊の中の誰よりも、鬼に対して厭悪の情を剥き出しにしている。星乃にはそう見える。
多くの仲間が命をぞんざいにされてきたのだから当然といえば当然だ。一方で、星乃には時折ふと心に過る思いがあった。
やはり、実弥の家族も鬼によって命を奪われたのではないかということだ。
自分のように代々鬼狩りをしている家であることや、縁者を鬼に殺された仇で入隊した者とは別に、幼い頃に両親を亡くしたり、生まれたときから親がなく孤児として育った者が鬼殺隊には多くいた。
実弥は後者かもしれないとも思っていたが、それにしてはあまりにも鬼への怨恨に満ちている。
「···実弥は」
「ふぎゃ」
「あァ?」
猫の悲鳴にも似たような声がして、星乃は慌てて半歩先にいた実弥の足もとを覗き込んだ。
実弥の脚が誤って仔猫でも踏んづけてしまったのではないかと案じた。だとしたならば大変だ。
と思ったのも束の間のこと。
星乃が見たものは猫ではなく、人間の幼子だった。
背丈からして四つか五つくらいだろうか。黒髪の短髪に、珍しい形の帽子を被っているのが最初に目につく。
可愛い形だ。
この被り物、名前はなんといっただろう。確か、どこかで見かけた記憶があるのだけれど。
頭のなかでうーんと唸り、ああ、そうだ。ピンと閃く。
べれーだわ、ベレー帽。
先日、買い出しの道すがら帽子屋の店頭に装飾されていた同じそれを見かけたばかりだったのだ。
幼子はうつむいたまま動こうとする気配がない。
詰め襟の白シャツに、膝小僧を出した黒いズボンを両肩から下げたサスペンダーで挟んでいる装いは、まるで異国の流行りものを纏った寫眞 (しゃしん) つきの書物からそのまま抜け出してきたようだ。
風貌からして男の子であると予想される。それよりもこの子はなぜこんな場所に一人でいるのか。
きょろきょろと周囲を見渡してはみたものの、家族らしき姿は見当たらない。
「······なんだァ坊主。一人かァ?」