第18章 天の邪鬼のあかぎれ
緊張で、星乃の鼓動が徐々に早鐘を打ちはじめる。まさかこんな形で玄弥と対面することになるとは思っていなかった。
実弥の、弟と。
「ていうかさ! 俺はこれからどうしたらいいわけ!? このまま「はいさようなら」!? また逃げたとか言われて風のおっさんに頭鷲掴みにされない!? そしてさっきからずっと俺は怪我が痛いのを我慢してるわけ!!」
「兄貴のところには戻れそうもねぇし、一旦帰るしかねぇだろ。怪我なら胡蝶さんのところで手当てしてもらえばいいんじゃねぇか?」
「いやさらっとそんなこと言いますけど蝶屋敷までどんだけ距離あると思ってんの!? 間もなく日が暮れちゃいますけど!?」
「んなこと言われてもなァ···俺は手当てできるもんなんか持ってねぇしよ」
「炭治郎ぉ~! 迎えにきてくれよぉ~! もうくたくただよお~!」
「お前なんで一緒に逃げてきたんだよ···」
「俺は! 巻き込まれたの! 炭治郎とお前に!」
「だあっ、うるっせーんだよ声が!」
「しかも俺殴られたのに謝ってもらってない!」
「そりゃお前が俺の兄貴を悪く言うからだろうが!」
「···あのう」
やいやいと言い争う二人の隙間を縫うように、星乃は遠慮がちに声をかけた。
「「──え?」」
二つの視線が星乃を捉える。瞬間、星乃はドキリとした。似てると思った。
「え、とっ「どうかしましたか」」
赤面し狼狽えはじめた玄弥の前方を陣取るように、目にも止まらぬ速さで善逸が星乃の眼前までやってきた。
善逸は、「困ったことがあるなら俺が力になりますよ」と凛々しく微笑む。
まるで絵に書いたような紳士的で小洒落た振る舞いをしてみせてくれる善逸なのだが、ついさきほどまで涙と鼻水を垂らしていた名残が目尻と鼻下に残っているため端から見たらとても面白い顔になっている。
星乃は眉を下げ苦笑した。
「あれ、鬼殺隊の隊服?」
ふと、星乃をまじまじと見つめはじめる善逸。そして、玄弥同様赤面し固まった。
「不死川玄弥くんと、我妻善逸くんね」
「ぇえ、っと······はぃ」
「なななぜこんな可愛いお姉さんが俺の名前を御存じで!? もしかして密かに俺のことが好き、ぐえ!」
「ッお前は黙っとけよ···!」