第18章 天の邪鬼のあかぎれ
「負担だなんて思ったことは、いっぺんだってねえよ」
「実弥はそうかもしれない。玄弥くんがなにを思っているのかも、実際は玄弥くんしかわからないことだわ···。だからこそ、もう少し、玄弥くんの気持ちに耳を傾けてあげてもいいんじゃないかしら···? 玄弥くん、実弥に会うためにずっと頑張ってきたんでしょう···?」
「呼吸も使えねぇくせに···」
「それでも、呼吸を習得することが叶わないとわかっても、諦めきれなかったのよ」
『兄貴に謝りたかった』
そう言った玄弥。
母を殺めたあの日、外に飛び出してきた玄弥は血塗れの母を抱いて俺に「人殺し」と叫んだ。そのことだろう。気が動転していたのだ。わかっている。
たかがそれっぽっちの言葉で、俺が傷ついたと思ってやがる馬鹿な弟。
つまんねェことにこだわりやがって。そんなもん、気にもしてねえっつぅのによォ。
( ···会いにくるだけっつぅんなら、正面切って来りャいいだけの話じゃねェのか )
玄弥が鬼殺隊にいると知ったとき、なぜわざわざ鬼殺隊 (ここ) に来たのかと怒りに震えた。
入隊なんざしてきやがるから突っぱねたんだ。せめて隠の道もあっただろうに、あいつは闘うことを選んだ。
そんな危ない橋を渡る真似事などせず、ただ会いに来てくれりゃァ良かったんだ。
実弥は拳を握りしめた。
『俺も、一緒に』と笑ったいつかの玄弥がよみがえる。
もう、一緒じゃなくていい。
俺一人でいい。
二人で守ろうだなんて二度と口にしたりしない。
俺が、玄弥を守るのだ。
だからこそ、玄弥が安心して暮らせるように、一刻も早くこの手で鬼共を殲滅するのだと今一度胸に誓う。
あたたかな家庭を築いて年老いるまで生きてほしい。それだけの想いだった。
ありふれた幸せを掴んで、長生きをしてほしいと願った。
( 玄弥の気持ち、なんざ )
「私、実弥には後悔だけはしてほしくないと思ってる」