第18章 天の邪鬼のあかぎれ
わかったわと微笑んで、星乃は承諾した。
「このくらいかな」
簡易用の薬箱に応急手当ての品を入れ、納戸から出る。すると、実弥がすぐ傍の壁に背中を預けて立っていた。
「さ、実弥」
「どこへ行くつもりだァ」
ジロリ。実弥は横目に鋭い眼光を宿して星乃を見た。どうやらまだ腹の虫は治まっていないようである。
「竈門くんから少し事情を聞いたので······玄弥くん、怪我をしているかもしれないから、様子を見に」
「チッ、あんのクソ坊主がァ、余計なことを言いやがって···。んなこたぁしなくていい。じきに日も暮れる。無駄にほつき歩くんじゃねえ」
「少しだけだから······お願い。近場にいなければ、すぐに戻ります」
「わざわざ星乃が行って手当てなんざしてやるこたぁねえっつってんだ。言うほど大層な傷でもねえ。手当てぐれぇテメェでどうとでもできんだろォ」
実弥は頑なだった。
なにをどう言っても聞き入れてもらえそうにない。
星乃は、抱えていた薬箱をぎゅっと胸に押し当てた。
「······実弥は、これからも玄弥くんに本当の気持ちを伝えないつもり?」
実弥は黙ったまま目の前の壁を見ている。
「このままじゃ、実弥は玄弥くんに誤解されたままになってしまうわ」
「構わねェよ。例えアイツに恨まれようが、玄弥が生きてくれんならそれでいい」
「玄弥くんは、なにがあっても実弥を恨んだりはしない」
星乃は実弥の横顔を真っ直ぐ見つめた。
「文乃の話をしたときのこと、覚えてる···? 実弥が言ってくれたのよ。文乃はお前を不幸にしてまで、幸せになろうとは思ってないって······。玄弥くんだって、同じだと思うわ。実弥に負担をかけてまで、幸せになろうとは思っていないんじゃないかしら」