第18章 天の邪鬼のあかぎれ
「竈門くん。なにがあったのか、教えてもらえる?」
そう問われ、炭治郎は星乃は見つめた。
さきほど星乃に声をかけたとき、炭治郎は星乃と実弥が同じ香りを漂わせていることに気がついた。内面的なものではなく、物質的な匂い。同じものを使って生活している。そんな匂いだった。
それに、星乃からは実弥をとても大切に想っている匂いがする。その先の詳しい事情までは読み取れないが、星乃は実弥の姉弟子だ。玄弥のこともなにか把握しているかもしれない。
そう感じ、炭治郎は口を開いた。
「···実は」
かくかくしかじか。
事の経緯を聞いた星乃が、手当てをする動きを止める。
「玄弥くんが···?」
「はい···それで、飛鳥井さんは玄弥のことは御存じですか」
星乃はうなずく。
「けれど、実弥から聞いた程度で、直接お会いしてお話したことはないの」
そうですか···と、炭治郎は心持ち力無げに声を落とした。
「玄弥くんはどこへ?」
「善逸、あ、一緒にこの稽古に参加していた俺の同期なんですけど、その善逸に玄弥を任せて、一時ここから避難してもらったんです」
「善逸···」
「黄色の髪をした、我妻善逸という隊士です」
「あ」
さっきの二人組だ。
ならば、一緒にいた黒髪の男の子。彼が、玄弥だったのだ。黄色の髪のほうにばかり気を取られ、顔までははっきり捉えられなかった。
「飛鳥井さん。不躾で申し訳ないのですが」
「うん?」
「ここはもう大丈夫なので、ひとつお願いを聞いてもらっても構いませんか?」
「いいわよ。なあに?」
「玄弥と善逸の様子を見に行ってもらいたいんです」
「え?」
「その、玄弥も怪我をしているかと···。あと、善逸も。まあ、善逸がボロボロなのは稽古のせいなんですけど···なので」
申し訳なさそうに頭を掻く炭治郎を見て、やはり実弥と玄弥の問題は難儀だと星乃はうつむき肩を落とした。
きっと、自分が二人のために力になれることなどたかが知れている。実弥があの調子ではなおさらだ。炭治郎も他意はないだろう。玄弥が怪我をしているようなら手当てをしてあげればいい。実弥の話を無理に持ち出す必要もない。