第18章 天の邪鬼のあかぎれ
玄弥を殺す気か。
実弥に向かい炭治郎はそう声を張り上げた。いくらなんでも実弥のやり方は度を越していると思った。
『隊律違反になるから殺さない。再起不能にする』
このときの実弥はかなり頭に血が上っている状態に見えた。炭治郎が、はじめて柱たちや耀哉と対面した柱合会議のときのような。もしくはそれ以上の怒気を放っている。
めちゃくちゃだと思った。
才が有ろうが無かろうが、そんなことは関係ない。命を懸けて鬼と戦う。そう決意した玄弥の選択を踏みにじろうとする実弥の言動が許せなかった。
鬼殺隊に入隊してからの玄弥を、実弥がどれだけ知っているというのだろうか。刀鍛冶の里での戦いは、玄弥がいたからこそ勝利できたのだ。玄弥がいなければ上弦の鬼に勝つことなど不可能だった。今、自分の命がここにあるかすらわからない。
玄弥の力だ。
例え日輪刀を思うように扱えなくても、他人のために命を懸けられる強さと覚悟を持っている。
玄弥が、いったいどんな想いを抱えてここまできたのか。
なぜわからない。
再起不能?
なぜそんな言葉を口にする。
だってあなたは、玄弥の実の兄だろう。
鬼殺隊の道に進んできた玄弥に腹を立てても、憎しみの思いは微塵もない。匂いでわかる。
このひとは、今でも変わらず玄弥のことが大好きだ。
だったらなおさら、絶対に。
『再起不能になんか、させるもんか!!』
実弥の怒りの矛先が、啖呵を切った炭治郎へと切り替わったのはそれからだった。稽古に参加していた隊士たちをも巻き添えにし、乱闘は大荒れとなったのである。
ひとまず玄弥はここから離れたほうが安全だろうと、善逸に頼み屋敷の外へと連れ出してもらった。
「ごめんね竈門くん。しみると思うけれど少し我慢してね」
「っ、!」
脱脂綿に薬品を染み込ませたものが、星乃の手から炭治郎の頬へと添え当てられる。
炭治郎は肩を飛び上がらせて顔を歪めた。
稽古で負った傷と、乱闘によってできた傷。既にどちらがどちらなのかは炭治郎自身も不明であった。なんにせよ、急を要する困難な手当ての必要はなさそうだという星乃に改めて礼を言う。
巻き込まれた隊士たちも、各々で互いに互いを手当てし合ってくれている。