第4章 旅は道連れ
これまでに、どれほどの人間が命を奪われてきたことか。家族や仲間を失ってきたことか。
耀哉の言葉をもっても当然納得も承知もできない実弥は、鬼の醜さを証明すると言い自らの腕に刃をふるったのだった。
「だからまた身体に深い傷を作ったのね···。無茶なことするんだから」
「無茶でもなんでもねぇよォこんなもん」
「手当てはした? 後で見せ」
「必要ねェって。舐めときゃあ治んだろォ」
実弥は少々鬱陶しそうに小指で耳の窪みをかりかりと引っ掻いた。
どう考えても舐めときゃ治る傷ではない···が、よく見ると縫い合わせた跡があり、その少し歪な形から実弥が自分で処置したらしいと見て取れる。
実弥にしてみれば、たかが知れたことなのだろう。
実弥の血は【稀血】と呼ばれる種のものだ。稀血とは血液の中でも珍しい血のことで、鬼はこの血を格別好む。
稀血の栄養価は五十人、または百人に相当するとも云われており、食った人間の数に比例し力を得るとされる鬼にとってはまさにとびきりの獲物といえる。それ故に、稀血の人間は狙われやすい。
実弥の身体が傷だらなのは、鬼殺隊になるより以前、この稀血を利用して戦っていたせいもある。
「それで、結局実弥に襲いかかってくることはなかったのね」
「三度もブッ刺してやったってのにどういうわけだかなァ。竹の口枷をしてやがんだが、滝のような涎は流しても喰らいつくことまではしてこなかったぜェ」
「人間の血肉に喰らいつかない鬼なんて、はじめて聞いたわ。実弥の血は稀血のなかでも特に貴重な種のものなのに···。その子、本当に鬼だったの?」
「あれは鬼だ。確かにちと異質な感じはした。風貌は限りなく人に近いが気配は紛れもなく鬼だった。星乃も目にすればわかるはずだ」
「それなら、尚更じゃないかしら···。その女の子、やっぱり他の鬼とはなにかが違うんじゃ」
「なんと言われようが俺は認めねぇよ」
ひらひらと掌をふりながら、実弥は星乃の言い分を一蹴した。
もう、実弥は頭が固いんだから。
直後はそう思った星乃も、けれど、そうよね···と思案する。
実弥に襲いかからなかったのだとしても、それは、偶然だったのかもしれない。証明はできたとて、この先もずっと人を襲わないという確証はない。