第18章 天の邪鬼のあかぎれ
これも、己の無力さを認め受け入れることが恐ろしかった己自身の弱さに繋がる。
本当は、誰もが皆天元のような想いを抱いて生きているのかもしれない。
それが正しいか間違っているかなど、誰にも諭すことはできない。ただ、己の中のみにしか存在しない答えというものを導き出した天元の、堂々たる潔さに心を打たれた。そして、星乃にも等しくそれが無意識の中に存在していたことに気づいた。
真っ先に、実弥を想った自分がいた。
天元の訓練は五日目を迎え、本日終了との許可が星乃におりた。
「飛鳥井、ちょいと待った。お前にはこれやるよ」
去り際に声をかけられ振り向くと、天元は右腕に一升瓶を抱えていた。
祝いの酒だ、という天元を、星乃は小首を傾げて見上げる。
「え、と···? なんのお祝いでしょうか」
「なんのって、不死川と飛鳥井が派手に恋仲になった祝いに決まってんだろ」
「──えっ」
「えええ! 不死川ってまさか、あのとっってもおっかない顔した柱のかたですかあ!?」
「バカ須磨、失礼でしょ!」
バシンッ! 須磨の頬を平手打ちするまきを。もはやお決まりのような流れだ。
ぎゃいんと泣き出した須磨の隣で、星乃は赤面して狼狽えた。
「いえあの、どうしてそれを」
うつむいて、しどろもどろ訊ねる。
実弥の話はこれっぽっちもしていない。だというのになぜ見破られてしまったのか。
「···ふうん」
天元が、鼻を鳴らしてニッと笑った。
「いや悪ィ悪ィ。実のところ半々の見込みでちょいとカマかけさせてもらったんだが、こうも素直に認められちゃあ世話ねぇわな」
してやられた。
天元の勝ち誇ったような笑みを見上げ、星乃はますます赤面した。
この、掌で人を転がすような見事な振舞いには恐れ入る。さすが、嫁が三人いるだけのことはある。
星乃は星乃で実弥への想いが絡むとどうにも顔に出てしまう。別段隠すようなことでもないが、他言無用だと言われても隠し果 (おお) せる自信はない。
星乃はしゅんと小さくなった。
「いやな、竹筒の底に罰点の傷があるだろ?」
「底? あ、本当」