第18章 天の邪鬼のあかぎれ
「なんだ、飛鳥井は知らなかったのか。つっても俺も相当前に一度見た限りなんだが、不死川の持ってたやつにも同じ傷がついてたことを思い出してな」
水分補給用に持ってきた竹筒をひっくり返すと、確かに彫られたような罰点の傷がある。
そう、これは実弥の竹筒だ。屋敷を出る直前、自分のそれが割れていることに気づいて急遽実弥のものを借りた。
持ち運びできる竹筒はどれもほぼ同じ形をしている。罰点は、おそらく実弥が他人のものと区別できるようつけたのだろう。最初に天元に声をかけられたとき、星乃は水を飲んでいた。その際、天元は竹筒の底の傷に気づいたのだ。
「そういうことなら、次はぜひ二人で遊びにいらしてね」
優しく微笑む雛鶴に、星乃も恥じらいながら笑顔を返す。
実弥も酒は嗜む。
近頃は任務も落ち着いているし、昼間のうち、少量ならばお酌にも応じてくれるかもしれない。
残る柱稽古は水柱だけ。彼の訓練の詳細はまだ不明である。事情があるのか、義勇は他の柱よりも遅れて参加することになったと聞いた。
しのぶの訓練は行われないとのことだった。
風柱邸に戻ってくると、なにやら邸内が騒がしかった。
ガヤガヤ、わーわー、ぎゃあぎゃあ、ドカバキ!
随分と激しい稽古である。
実弥の稽古も男女別だと言っていた。この様子だと本日は男性陣の稽古なのだろう。
ドン······ッ!
「きゃ···っ」
突如門扉から飛び出してきた人物と、星乃は衝突した。危うく一升瓶を落としかけ持ち直し、事無きを得てほっと胸を撫で下ろす。
「わあっ! す、すみませんー!」
二人組の少年だった。ひどく慌てている様相で、その後星乃の姿には目もくれずに去ってゆく。
一人は黄色の髪をした少年。あとを追うように、横髪を反り上げた黒髪の背の高い少年が続いた。
( 鬼ごっこ···? )
あれも訓練の一環なのだろうか。と首を傾げたときだった。
「そういえば、今の子」
黄色の髪の少年は、以前蝶屋敷で見かけたことがある子だ、と思い出す。
「俺の兄貴を侮辱すんな!!」
「俺味方なのに!!」
黒髪の大きな少年が、黄色の少年の顔を殴ったのが見えた。