第18章 天の邪鬼のあかぎれ
整った歯並びを覗かせた天元の笑顔は、星乃の肩から余分な力を取り去った。
接してみて思う。以前よりも穏やかな雰囲気を纏われている、と。
思い起こせば、蝶屋敷で出会った日、天元は花街へ乗り込む直前だったのだ。急を要するとも言っていた。故に殺伐としていたのだろう。
本来はこんな風に優しくわらう人なのだと思えたら、いつしか星乃も自然と笑顔になっていた。
「あら!? 女の子の隊士発見ですよお、まきをさん、雛鶴さん! っきゃああ!」
「ちょ、なにすっ転んでんのよ馬鹿須磨! アンタはもうちょっと落ち着きなさい! 危うく握り飯が落っこちるところだったでしょ!」
「あーん! まきをさんが馬鹿って言ったあ!」
天元の背後から、賑やかな三人組の女性たちがやってきた。
胸もとの大きくひらけた着物の着方は斬新で、活発さと女性らしさの両方を併せ持ったそれを彼女たちはとても上手に着こなしている。
年齢は三人ともさほど変わらない見た目に思えた。星乃とも同じくらいと感じる。
大量の握り飯が入った巨大な木の桶を抱えている二人。うちの一人が石に躓き派手に転んだ。すると、桶を一人で支えることになってしまった彼女がものすごい剣幕で憤怒し出した。
転んだ彼女がびえーんと泣き出す。
( もしかして、彼女たち )
「お腹空きましたでしょう? おむすびとお茶をどうぞ。向こうにはお魚や汁物もありますから、よろしければ取りにきてくださいね」
「あ、ありがとうございます」
握り飯を二つ。それから竹を割った湯飲みを星乃に丁重に差し出したのは、長い髪を高い位置でひとつに纏めた落ち着きのある女性。
礼を言い、星乃はそれを受け取った。
「天元様ぁ! まきをさんが、まきをさんが! 今の聞いてましたあ!?」
「あー、はいはい、ちょっと聞いてなかったわ」
「どうして聞いてないんですかぁ! 天元様はぼんくらですかぁ!」
「こら、桶から手ぇ離しっぱなしにすんじゃないわよバカ女! 重いじゃない! あとでまた口に石詰めてやるから!」
「ぎゃー! まきをさんがいじめるー! また口に石詰められるー!」
「ちょっと二人とも静かにしてよ···! 彼女びっくりしちゃってるじゃない······!」