第18章 天の邪鬼のあかぎれ
それは、蜜璃いわく『れおだーど』という名の稽古着で、恋柱の稽古では揃ってこの衣装を着なければならないという彼女独自の決まりがあった。
女性用は、レオタードなるものに薄い素材の袖が付き、短い巻きスカートが付属されていた。
男性用は上肢も下肢も丸出しの形のうえ、(下肢には真っ白なタイツを着用) 気持ちばかりとも言えないスカーフのようなリボンが腰に巻かれているだけのものであるらしく、蜜璃からその話を聞いた星乃はくらくらと目を回した。
しかしそれはこれから訪れる過酷な稽古の序の口に過ぎなかった。
さあ、はじめましょ!
にこっと愛らしく笑んだ恋柱。甘露寺蜜璃による、地獄の柔軟のはじまりである。
キャィヤアァァアアア!!!
道場にこだまする甲高い絶叫。失神寸前の激痛を伴う身体のほぐしは、もはや蜜璃による力技で行われていた。
「みんな、ガンバよ!」
笑顔で声援を送る蜜璃は決してほぐしの手を緩めない。心優しい蜜璃だが、訓練においては容赦ない柱なのだと思い知った瞬間だった。
星乃は柔軟だった。蜜璃ほどではないにしろ体幹も釣り合いがとれている。
時折辛いほぐし技はあったものの難なく耐え、蜜璃の訓練は三日で終了した。
その後、他の柱の稽古場を回り各々数日から一週間程度の訓練に励んだ。
霞柱・時透無一郎による高速移動は五日。
蛇柱・伊黒小芭内による太刀筋矯正は三日。
岩柱・悲鳴嶼行冥による筋肉強化訓練は十日を要した。
どれも楽な稽古ではなかったが、星乃は比較的他の隊士たちよりも器用にこなした。
ただひとつ、元より筋肉が付きにくい体質の星乃は巨大な岩を一町先まで押して動かすという行冥の稽古の課題は至難で、(岩は男性隊士の半分の大きさ) 星乃は行冥に「改めてまた来ます」と告げ、先に宇髄天元の訓練へと出向くことにした。
二度目に対面した天元の外見は以前とは異なっていた。
隊服ではなく着流しを身に纏い、髪の毛が下りている。左目には宝石の装飾が施された眼帯が巻かれているものの、縦に長い傷痕が眼帯からはみ出していた。
今は羽織に隠れているが、左手も見えない。