第18章 天の邪鬼のあかぎれ
柱稽古がはじまった。
星乃は実弥の稽古への参加を取り止め、ただし別の柱たちの稽古へはきちんと参加したい旨を正直に実弥に話した。
二つ返事とまではいかなかったが、実弥がそれ以上星乃に待ったをかけることはなかった。
「きゃーっ、星乃ちゃんお久しぶり!」
甘露寺邸に到着すると、皆を待ち望んでいた蜜璃が満面の笑顔で両手を広げ出迎えにやってきた。
欣喜雀躍 (きんきじゃくやく) する蜜璃の手を取り星乃もその場で一緒に飛び跳ねて喜び合う。
「蜜璃ちゃん、この間はお手紙どうもありがとう。教えてもらったパンケーキ、おかげさまですごく美味しくできたの」
「わあ、さっそく作ってくれたんだ! 一緒に作れなかったのは残念だけど、お役にたてたならよかった!」
「実弥の提案でね、あんこを乗せて食べてみてもすごく美味しかったのよ。蜜璃ちゃんにもぜひ試してもらいたくて」
「うそ不死川さんが···!? それ超絶美味しい予感しかしない···!」
「ふふ。実は実弥と一緒に作ったの」
「えええっ! 不死川さんてお料理もできるの!? 意外だけど素敵だわ!」
蜜璃は豊満な胸の奥を高鳴らせ、興奮した様子で頬を上気させた。
久方ぶりに再会した乙女たちの話は途切れることを知らない。しかしながら本日は柱稽古にやってきたのだ。遊びにきたのではないという自覚を持ち直し、星乃は改めて気を引き締める。
「思ったとおり、星乃ちゃんすっごく似合う! 可愛いわ···!」
まずはこれに着替えてきてね、と蜜璃から手渡された稽古着は、広げた寸刻意識が彼方へ吹っ飛んでしまったほど布地の面積が小さかった。
柱稽古は基本的に男女別で行われる。単純に男女の体力や能力の差を考慮してのことだ。そのため本日蜜璃の稽古は女子しかおらず、そうはいってもこんな小さな衣装に袖を通すのははじめてのことなので、別所で着替えを終えた参加者たちは皆恥じらいながら大蛇 (だいじゃ) のように連なって稽古場へ赴いた。
みんなで行けば怖くない。の精神である。
本日の参加者の中では星乃が最年長だったため、私が皆を引っ張らねば···! と先陣を切った星乃を見た蜜璃の第一声だった。