第4章 旅は道連れ
建ち並ぶ煉瓦造りの高い建物が見え始めると、喧騒が身体に纏いついた。
街路の中心を走行する市電が眼前を過ぎてゆく。洒落た西洋の洋服に身を包む婦人らがあちこちを優雅に闊歩 (かっぽ) している。
「それじゃあ、その鬼となった女の子を鬼殺隊として正式に迎え入れたの?」
「俺は、認めてねぇけどなァ」
ひどく不機嫌な面持ちで、実弥は毒々しい声を発した。
先日行われた柱合会議での出来事を聞いた星乃も驚きを隠せず双眸を丸くする。
柱は、半年に一度鬼殺隊本部となる【産屋敷耀哉】の屋敷に集い、鬼に関する情報の交換や隊の今後の策定を行っている。
隊士たちから【お館様】と呼ばれる耀哉。彼は産屋敷家九十七代目となる鬼殺隊の当主だ。
見る者を魅了するしなやかな佇まい。対話する相手に心地よい揺らぎをもたらす不思議な声音。清らかな水のように心に溶け込んでゆく言葉には、誰もが耳を傾けてしまう。
優れた先見の明を持つ、組織を導く若き長。その存在に、隊士たちは皆絶対的な敬意と信頼を置いている。
「けれど、お館様がそこまでおっしゃるのなら、その、竈門くんと鬼の妹さんは、鬼舞辻を追い詰めることのできる特殊な何かを秘めているのかも」
「······」
実弥は顔をしかめた。
『鬼舞辻がはじめて見せたしっぽを掴んで離したくない』
耀哉も、同じようなことを口にしていたのだ。
先日の柱合会議で、実弥は例の鬼をつれた隊士と一悶着を起こしていた。
隊士の名は【竈門炭治郎】という。
鬼は皆殺しを心に決めている実弥にとって、炭治郎の妹を"殺さず生かしておく"という選択には万に一つも賛成できず、真っ向から反論した。
尚且つ、鬼である妹と共に鬼殺隊として戦えるなどと大口を叩いてみせた炭治郎と実弥は衝突。
善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないのなら柱なんてやめてしまえと非難されたことにも、実弥は怒り心頭なのだった。
善良もなにもあるものか。鬼に成り下がった瞬間から、奴等は皆、塵屑同然の化け物だ。人間から尊きものを奪い続ける、悪しき害虫だ。鬼が人を守るなどありえない。そんな鬼はいない。