第1章 七夕月の盆、夕間暮れ
「一緒にお見送りさせてもらっても?」
言いながら、星乃は淡い微笑みを浮かべて実弥に歩み寄ってゆく。
故人を偲び弔う、ささやかな時間。故に実弥は一人になりたいかもしれない。
ふとそんな躊躇いもよぎったが、実弥のことだ。邪魔ならば『帰ってくれ』と正直に言うだろう。そう思い、星乃も素直に願い出てみた。
大ぶりな双眸が、斜め上に星乃を見上げる。
パチリ···パチリ···。
麻がらの燃えゆく音を三つほど流すと、実弥はフイと送り火に視線を戻し、「好きに、すりゃあいい」と呟いた。
実弥の家族は「数年前に亡くなった」とだけ聞いていた。
実弥が自らの生い立ちを口にすることは滅多になく、以前、鬼殺隊同士の会話の中で何ごころもなく訊ねたときの返事がそれだった。
どこでどのようにして育ち、家族とは父なのか母なのか、はたまた祖父母か、兄弟はいたのかどうかもわからない。
家族の死に鬼は無関係なのかもしれないし、事故や病気で亡くした可能性も考えられる。
しかしながら、深くは訊ねてくれるなと言わんばかりの微かな憂いを漂わせていた実弥に対し、星乃はそれ以上踏み入ることができずにいた。
心近しい者を亡くした絶望、哀しみを抱えている隊士は多い。
それは星乃自身も例外ではなく、誠意ない詮索ほど傷を抉るものはないことを留意していた。
「そういやァ、出向いたのかよォ、匡近の墓参りには」
「ええ。他の隊士の皆と一緒に手を合わせに行ってきたから、安心して」
「悪かったなァ、行けなくなっちまって」
「ううん気にしないで。近頃は鬼による被害拡大が急激に加速しているみたいだし、柱は任務も多いもの」
「そんなもんを言い訳にする気はねェよ」
「でもほら、実弥は盂蘭盆 (うらぼん) なんて関係なく、よく匡近に手を合わせに行ってくれてるじゃない?」
「ッ"」
実弥が寸刻ぐっと喉を詰まらせる。
「オイ待てェ···そいつァ、どこで知りやがったァ···」
誰かに言付けて墓参りに出向いた覚えは一度もないし、墓地で知った顔に出くわしたこともないはずだ···。そう言いたげな実弥の視線を感じとったとたん、星乃は吹き出すのをこらえるように肩を揺らした。