第17章 この指とまれ
「実弥にちゃんと認められたら、実弥はもう少し私を頼ってくれるんじゃないかって、長い間、どこかでずっと、そう思っていたの」
風が止み、風鈴の音が途切れる。まるで時間が止まったみたいに。
代わりに屋敷の外を駆け回る子供たちの声が響いて、確かな時の流れを再確認する。
なぜだろう。
想いとは、時に言葉にしたとたん、軽薄で薄っぺらなものになってしまう。
実弥の力になりたいという想いさえ、蓋を開けばひどく主観的で自分本位なものでしかない。
今でも実弥は星乃の前で弱音を吐くことはまずないし、気落ちしたり、不安定になることがなかった。
頼るのはいつも自分ばかりで。
実弥を支えていきたいだなんて匡近に誓ったくせに、相変わらず自分だけが実弥に守られていると感じる。
「······お前には、俺はどう映ってる」
ふと零れたような物言いに、今度は星乃が引き寄せられるように実弥に向いた。
実弥はあぐらを組んだ膝の上に肘を乗せ、指で顎を支えながら屋敷の周囲を取り囲む塀の瓦辺りに双眸を向けている。
「鬼に家族を奪われたことのないお前の目には、俺は哀れで可哀想な奴に見えるか」
「···そんなこと」
まるで無かった、とは言いきれなかった。
少なくとも、実弥から実母を殺めたと聞いたときはとても心苦しくなったし、なにより、出逢ったばかりの頃の実弥はひどい焦燥感に駆られているようで同情した。
よほど許しがたい目にあってきたのだろうと。
「いいんだぜ別に。大抵の人間はそう思うだろうしよォ、鬼殺隊 (ここ) には同じような境遇の仲間がいるっつうだけで、そうでない人間は皆揃って『可哀想に』って目をしやがる。親父が生きていた頃も、死んだ時も、そうだった」
夏の残り香と、どこからか、命を終えようとす抑揚のない蝉の声がした。
「だがなァ、周りになんと思われようが、俺は自分を可哀想だと思ったことはねェ。そりゃあどうにもならねぇ憤りみてぇなもんはあったぜ。今でも不条理な出来事に遭遇するたび腹の底からやりきれねェ思いに駆られる」
噛みしめるように、星乃は小さく頷いた。