第17章 この指とまれ
以前と少しだけ異なるのは、時折空いた時間を見計らい実弥に稽古を願い出ても、なにかと理由をつけて断られるようになったことだ。
「······実弥は、どうして私に稽古をつけてくれなくなったの?」
しばし実弥は黙っていた。
継子ではないのだから稽古をつける義務はない。これまでのことは、実弥が厚意で引き受けてくれただけのものだ。
わかりきっているのに、問いかけずにはいられなかった。
爽籟が羽を広げ飛び立つ。
見届けたあと、実弥はおもむろに口を開いた。
「本音を言っちまえば、もとはお前のしつこさに根負けして応じたもんだ。折を見て手を引こうと考えていた」
「······」
「根負けしたといってもお前の実力を見て一時は継子にと考えたこともあるし、稽古に手を抜いた覚えはいっぺんだって無ェ。お前の特性や能力に合わせ俺なりに手合わせをしてきたと自負してる」
わかっている。心の底から感謝している。
実弥は、いつだってとことん、私と向き合ってくれていた。闇雲に打ち合っていたわけではない。短時間でも効率の良い稽古ができるよう尽力してくれた。
実弥に稽古を願い出て数年が経つ。その間に、甲にまで昇格した。実弥との稽古を通して学んだことがたくさんある。ありのままの自分を少しずつ許していこうとも思えた。
実弥から巣立たなければいけないこと。本来ならばそれを自らが望まなければならない立場であることも、理解している。
ついに、その日がやって来たのだ。
「···私、実弥との手合わせが好きだった」
庭を見ていた実弥の視線が隣にいる星乃に向いた。
星乃は微笑んでいた。
「けれど、同じくらい、実弥からどうしても一本取りたくてしかたなかった······まだそれが叶っていないから、少し、悔しい気持ちもあるの」
まつげを伏せた星乃の優しいまばたきが、三度、沈黙を和らげる。
「それができたら、少しは、実弥に認めてもらえるような気がして」
片眉を下げ、実弥は疑問を顔に浮かべた。
「以前にも似たような事を口にしてたなァ······俺ァ認めちゃあいねぇ奴と長ぇこと一緒に居られるほど我慢強くねェよ」
「ふふ。わかってる」
「? じゃァなんだよ」