第17章 この指とまれ
縁側に並んで座り、互いにそれぞれの皿から好きな量を別皿に取り分けジャムと餡を味わった。
小間物屋で買ってきた、銀色のナイフとフォークが陽光を弾き、そろそろ片そうかと考えている風鈴が頭上で麗しい音色を奏でる。
「実弥の言った通り、パンケーキにあんこ、すごく合うわ」
「そりゃよかったなァ」
ほっぺたが落ちそう、とパンケーキーを頬張る星乃が満面の笑みで片頬に手を添える。
和と洋のパンケーキはどちらも甲乙つけがたく、果実の甘酸っぱさと餡のほっこりした甘味を交互に食べられるのがたまらなく贅沢だ。
片足だけあぐらを組んで膝を折り、抹茶を啜る実弥の腿 (もも) の上に爽籟 (そうらい) がやって来た。実弥の鴉だ。
餡をねだる爽籟の嘴に、実弥は少量のそれを人差し指に掬って差し出す。
爽籟は、つくつくと器用に餡を口の中へ運び入れ喉を鳴らした。爽籟もあんこが好物で、おはぎを食べているときもよく実弥の傍に寄ってくる。
カアッ、という鳴き声が脚もとから聞こえ、見ると紅葉が星乃を見上げていた。
紅葉さんも食べる? と聞くと、食ウ! と言うのでパンケーキをちぎって差し出す。
「旨イ!」
「ふふ。ありがとう紅葉さん」
紅葉が星乃の作ったものを「旨イ」と云ったのはこれがはじめてのことかもしれない。
「実弥の柱稽古はここでするの?」
「あァ、向こうの道場と半々にするつもりでいる」
風柱邸の敷地の奥には道場がある。道場と、屋敷の庭全体を使って稽古をするつもりなのだと実弥は言った。
「それで、実弥はどんなことをするのか決まった?」
「無限打ち込み稽古だ」
「え」
稽古の名称を即答され、星乃は沈黙した。
無限······打ち込み······稽古、とは。
「そ、それは、どういう···?」
「どうもこうも、反吐ぶちまけてブッ倒れるまで俺に斬りかかってこいやァ、つう、単純な打ち込み稽古だ」
さらりと、本当にさらりと答えたのである。そのまんまじゃないか、と思わず突っ込みたくなったがこらえた。
あまりにも簡単なことのように言うので楽観的な響きに聞こえてしまったが、星乃は一般隊士たちの身の危険を悟り目の前が眩んだのだった。