第17章 この指とまれ
白い割烹着を身に纏い、星乃は早々に調理の手の動きを止めた。
「メリケン粉に、お塩を少々···。少々ってどのくらいなのかしら······」
言いながら大匙に塩を一杯たんまり盛った星乃を見て、実弥はぎょっとした。
「おい待てェ、ンな加えちまったらまたとんでもねぇことになんだろうがァ」
「え···? でも、メリケン粉に比べたらだいぶ少量だと思うんだけど」
「少々っつったらひとつまみくれぇでいいんだよォ」
隣で鍋を見ていた実弥がすかさずこちらにやってくる。
そうなのね、と感心しながら、星乃は大匙に掬ったそれを保存瓶に戻し入れ、言われたらとおり指でひとつまみした塩をメリケン粉の入った大きめの鉢へパラパラと加える。
「おかしいわねえ······なかなか上手く混ざらないわ」
「んな細っこい箸回したところで混ざるわけがねェだろォ···っ、こっちを使えェ」
ポイと実弥から渡されたのは、抹茶を点てるときに使う茶筅 (ちゃせん) だった。確かにこの形ならよく混ざりそうだ。
そういえば、蜜璃は鶏卵をかき混ぜるときも茶筅を使うと言っていた。なんでも鶏卵料理がふわふわに仕上がるらしい。
「黄身と白身は別だと甘露寺の手紙にも書いてあんだろうがァ」
「バ、おま、そりゃ油脂ひきすぎだろ···っ、揚げ物じゃねェんだからよォ···っ」
「オイオイ、もう少し焼かねぇと、これじゃあ半生になっちまうぜぇ」
厨には終始実弥の声が飛び交った。
その甲斐もあり、完成したパンケーキは表面が見事なきつね色に焼き上がっている。見た目も食欲をそそられる、上等な出来映えだ。
厨の中が香ばしさと甘優しい匂いでいっぱいになる。
大きめに焼いた計四枚のパンケーキを二枚ずつ皿にわけ、片方にはキウイフルーツと林檎を細かく切ったものを散らし、いちごのジャムを添える。
ジャムはいちごの形が丸々残っている『ごろごろジャム』というもので、種の食感まで楽しめるいちご好きにはたまらない甘味だ。
もう片方の皿に添える餡は実弥のお手製。
つぶがほくほくしていてこちらもとっても美味しそう。